生ける仄暗い感情と死せる理性の鎖が渦巻く紺青の果て。
怪物に取り込まれ、外身だけを残した海の狩人。踊る剣はその手から滑り落ち、紡ぐ声は世の理を覆す。
「どうして、どうして私を拒むの?」
旧き賢者は沈黙を以て応えた。
「潮はすべてを掻き消すの──そこに苦痛はなくて、歓びだけが在るの」
生命の在り方を根幹から抉り出し、削ぎ落とす。
なんと冒涜的であろうか。
「貴女は長い間苦しんできたのよ。だから……全てを手放して、私と共に深くへ──」
賢者は鞘から刀を抜き、その首に当てる。ヒトの矜持をその身を以て示し、痛みで誘惑を跳ね除ける。
紺青の中に滲む深緋は流れに逆らい、空を目指して昇る。
「いや、やめてちょうだい……貴女が傷付く姿は見たくないの」
首の傷は未だ痛むし、体は冷えを訴えるように震えている。それこそが己をヒトと証明できる数少ない手段。
混濁する意識の中で伸ばした手を、温かな手が握り返してくれた。
─
「奉ろわぬ神の一柱よ この地より居ね」
透き通る琥珀は、太陽の光を受けて揺らめいていた。
己の神域を、愛すべき主を侵害された怒りは計り知れない。穏やかで理知的な彼だが、神としての一面を見せつける。
「主は誰にも渡さん。魂の一欠片も、誰ぞに渡すものか」
肌を嫐るように照りつける感覚に、焼け焦げる痛み。目の前にいる男は本気だ。
それでもなお、記憶の中の自分は藻掻けと囁く。
「触りなさんな」
焼け饐えた匂いがする。
声を封じられた。歌うことも、喋ることもできなくなった狩人に勝ち目はない。
「主に手を出いたんや、覚悟決めて潔う散れ」
「夢路を攫う刃」
(※刀剣乱舞×明日方舟)
1/21/2024, 9:56:39 AM