狐コンコン(フィクション小説)

Open App

13

「お爺ちゃん、字へたくそなのなんで?」

孫の真っ直ぐな言葉に、奥で嫁さんや息子が茶を吹き出しそうになっているのを見て、俺は笑いを堪えながら答えた。

「爺ちゃんは馬鹿だからしょうがねえのよぉ。ごめんなぁ、格好悪い爺ちゃんで。」

頭をポリポリ掻きながら、自嘲を混ぜる。

「かっこ悪くなんてない!お爺ちゃんはかっこいいもん!」

子供らしいまんまるの笑い方で、俺のはんてんに顔を突っ込んでくるこの子が愛おしくてたまらない。
寒さでささくれた俺の手でゆっくりゆっくり頭を撫でてやるのが、今の俺にとって何よりも幸せな時間だ。

「きっと寒いからお手手が震えて上手く書けないんでしょ。私があっためてあげるね!」

「おお、そうかそうか。優しい子だなぁ、ありがとうなぁ。」

俺の手をまだ小さい手で包み込んで、小さい息で少しずつ温めてるこの子に、俺と同じ思いをしてほしくない。



俺は字が読めない。

書くこともできない。

俺は学校に通えなかったから。



でも、この子は未来がある。

これから学校に通い、学び、賢くなっていける。

「俺みたいに寒い中道を進むんじゃなくて、あったかい整理された道を進んでなぁ。」

どうか、この子の行先が冬のように凍えることなく、学びに溢れ、幸多き人生でありますように。

11/17/2025, 6:57:28 PM