池上さゆり

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 葬式から一週間経った日。一つの郵便物が届いた。送り主は先週の葬式で弔われた友達だった。普段は本人しか読めないような汚い字を書くのに、可愛い便箋に書かれている文字は今までに見たことがないぐらい丁寧で、少し歪んだ文字だった。
 私はすぐにそれを読むことができなかった。それでも、部屋に持ち帰ってどうするか考えていると、捨てることはできなかった。
 恐る恐る、中を開けた。便箋が三枚入っていた。ゆっくりと読み進めていく。その中には友達として過ごした日々の思い出が書き連ねられていた。一緒に祭りに行ったことや、お揃いのノートを買ったこと。席替えで隣になるように他の人とくじを交換したこと。体育の授業で常にペアを組んだこと。一緒に勉強会をしたはずなのに二人とも赤点をとったこと。
 たくさん書かれている友達との思い出。どれも色鮮やかに思い出すことができる。涙なんて出なかった。まだ、彼女がどこかで生きているかのような気がするのだ。いじめごときで自殺するような人なんかじゃない。そう言い聞かせるも、現実は変わらない。それは先週の葬式で火葬場まで付いて行った私が一番よくわかっている。
 だからこそ、笑いが込み上げた。彼女がいじめられるきっかけを生み出したのは私だ。一緒に買い物しに行ったときに偶然撮った写真が万引きしているかのように写ったのだ。私はそれをクラスメイトに見せた。すると、簡単にそれを信じた人たちが彼女をいじめ始めた。ざまぁみろとしか思わなかった。美人で性格も良くて、金持ちの家に生まれて、それでも少しバカな彼女をみんなが好いていた。だからこそ、いじめが始まった時も、みるみるやつれていく姿を見ながら心配するふりをして心の中では笑っていた。自殺した時なんてなにか大きなことをやり遂げたかのような達成感があった。
 便箋を封筒の中に戻して、お父さんのライターを借りた。火をつけて燃やす。一人のリビングで、最後まで私のことを友達だと信じていた彼女のことを嘲笑っていた。
 なんとなく、庭に繋がっているリビングの窓から視線を感じてカーテンを閉めた。

7/7/2023, 9:41:04 AM