「クソッ! 埒が明かねえ!」
銃弾の飛び交う戦場。敵地で逃げ場のない籠城戦。敵は増え続け、とうとう最終ラインまで追い込まれていた。
「文句言う暇があるんなら、一発でも多く当てろヘタクソ」
上官は気楽なもんだ。こんな状況なのに、ゆったり椅子に座って地図を見てる。もう作戦も何もない。
「一点突破しましょう! 俺が道を作ります。その隙に少しでも多く脱出を!」
「どこに逃げるって言うんだよ? ここは敵地のど真ん中だぞ。戦場が変わるだけだ」
「じゃあここで撃たれるのを待ってろって言うんですか⁉︎」
「今考えてる」
「なるべく早くお願いしますよ!」
最終防衛ラインという危機感、地の利の有利など、ここ一点だけを見れば戦局は悪くない。しかし時間の問題だろう。敵は物資も人員も補充し放題だ。ゆっくり囲って、煮るなり焼くなり好きにすればいい。
もうここまでか。
頭の片隅でぼんやりとそんな考えが浮かぶ。息子に、一目会いたかったな。
その時、敵軍の中心辺りで爆発が起こった。なんだ?事故か?
上空に航空機が飛んでいた。爆撃が始まる。敵は大混乱だ。
「よーし、あと少しだ! 死ぬんじゃねえぞ!」
上官はようやく椅子から立ち上がり、防衛ラインの指揮を取りはじめた。
「これ知ってたんですか⁉︎」
「当たり前だろ。他に誰が空軍動かせんだよ?」
「じゃあ…さっきまでの余裕っぷりは…」
「どうせ最終ラインまでは捨てる前提だったからな。俺の仕事はなかったし、束の間の休憩だよ」
ここまでに死んでいった仲間、俺たちの必死の敗走。それらは全て無意味だった。その事実に怒りを覚える。
「おら!ボサっとすんな! 敵さん来てるぞ」
爆撃を乗り越え、数人の部隊がこっちに向かってくる。
どうなろうと構わない。後で絶対にぶん殴ってやる。そう思いながら俺はまた弾を撃ち始めた。
『束の間の休憩』
10/8/2022, 11:57:18 PM