夜兎

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高校卒業とともに疎遠となって数年。
スマホから、聞き覚えがある旋律が流れてきた。

"AmazingGrace"
讃美歌の一つで、彼女が歌っていたのを眺めていた。
伸びやかで澄んだ歌声は、いまでも鮮明に思い出せる。
懐かしい思い出だ。

数ある讃美歌の中で、特にこの曲を好んでいた。大事な思い出のあると聞いていたが、詳細は聞かなかった。悲しげな横顔を見て、踏み出す一歩がなかった。

思い出の曲を聴いて思う事は一つ。
________君に会いたい。


「その、久しぶり…元気だった?」

「うん。久しぶり。急に電話くれたから驚いちゃった」

消す事が出来なかった彼女の携帯番号。
かけてみれば、すんなり繋がった。
直後、聞こえてきた懐かしい声に、心臓が早鐘を打つ。

「ところで何かあったの?」

「いや、そうじゃなくて……讃美歌聞いたら、君のこと思い出して」

「………話したくなった?」

「というより、会いたくなった」

不意に訪れた沈黙。
流れる気まずい雰囲気に言ってはいけない事を言ってしまったと気付かされる。

学生時代とは違う。今の自分が、彼女の都合を考えず言っていい事ではなかった。
会えない現実に一抹の寂しさを感じたが、だが、その気持ちを言ってしまえば彼女を困らせてしまう。

「嬉しかったよ。会いたいって言ってくれて」

「え?迷惑じゃなかった?」

「……うん。だって………」

その後、彼女の言った事に胸がいっぱいになった。。一方通行だと思っていた想いが、実はちゃんと届いてた。
その事実に喜ばずにはいられなかった


#君が紡ぐ歌

10/19/2025, 12:30:16 PM