🍂ウォームホームで、コーヒーが冷めないうちに
登場人物
- 遥斗(はると):心に空白を抱えた青年。静かな居場所を探していた。
- 智彦(ともひこ):カフェ「ウォームホーム」のマスター。穏やかで、過去に触れるような静けさを持つ。
舞台
- ウォームホーム:秋の路地裏に佇む小さなカフェ。木造の扉、アンティークのランプ、窓辺の本棚、そして古びたジュークボックスがある。訪れる人の心をそっと包み込むような場所。
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第一章:落ち葉の扉
遥斗は、秋風に吹かれながら静かな路地を歩いていた。心の隙間を埋めるような場所を探していたとき、赤い落ち葉の先に「ウォームホーム」の看板が現れる。
扉を開けると、シナモンと焙煎豆の香りが漂う店内。カウンターの奥には、静かにコーヒーを淹れる智彦の姿。
> 「冷めないうちに、どうぞ」
その一杯のコーヒーが、遥斗の心に温もりを灯す。
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第二章:通い始めた理由
遥斗は「ウォームホーム」に通うようになる。智彦との会話は少しずつ深まり、店の空気が遥斗の心をほどいていく。
「この店、なんで“ウォームホーム”って名前なんですか?」
「……誰かにとって、帰れる場所になればいいと思って。僕自身、そういう場所をずっと探してたから」
その言葉に、遥斗は胸が少しだけ熱くなるのを感じた。
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第三章:音の記憶
ある夜、遥斗は智彦に誘われて、ジュークボックスの前に立つ。智彦が選んだのは、ビル・エヴァンスの《Waltz for Debby》。柔らかなピアノの旋律が、店内に静かに流れ出す。
「クラシックジャズって、記憶の奥に触れるんですよ。音だけは、時間を越えて届くから」
遥斗はその音に、遠い日の記憶を重ねる。そして、智彦の横顔を見つめながら、ふと気づく。
> この人の声も、音楽みたいだ。静かで、でも確かに心に残る。
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第四章:風の夜に
台風の夜、遥斗は誰もいない「ウォームホーム」に駆け込む。
「……閉めようと思ってたけど、君が来る気がして」
キャンドルの灯りと、ジュークボックスの低い音だけが漂う店内。ふたりは同じテーブルに座り、言葉を交わす。
「寂しい夜ってあるんですよね」
「……わかる。僕も、そういう夜に誰かが隣にいてくれたらって、ずっと思ってた」
その夜、ふたりの距離は、ほんの少しだけ近づいた。
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第五章:冷めない記憶
「“冷めないうちに”って、ただの合図じゃないですよね?」
遥斗の問いに、智彦は少し黙ってから、静かに語り始めた。
「……昔、好きだった人がいたんです。ずっと言えなかった。言葉にするのが怖くて、気づかれないように、ただ隣にいるだけで満足してた」
遥斗は、そっと耳を傾ける。
「その人、ある日突然、結婚するって報告してきて。嬉しいって言わなきゃいけないのに、心の中では、ずっと言えなかった言葉が冷めていくのを感じてました」
智彦は、カウンターの奥にあるジュークボックスを見つめる。
「その人が最後に選んだ曲が、《My Foolish Heart》だったんです。……それ以来、僕は“冷めないうちに”って言葉を、誰かにちゃんと伝えようって決めたんです」
遥斗は、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。そして、そっと言葉を返す。
「……じゃあ、僕は冷めないうちに言います。あなたのコーヒーも、音楽も、言葉も、全部好きです」
智彦は驚いたように遥斗を見つめ、そして静かに微笑んだ。
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第六章:ふたりの秋
秋が深まり、街路樹の葉がすっかり色づいた頃。遥斗は、智彦の隣でコーヒーを淹れる練習をしていた。
「……これ、僕にもできるようになったら、あなたの隣に立てますか?」
「遥斗くんが淹れるコーヒーなら、誰よりも温かいと思うよ」
ふたりの距離は、もうカウンター越しではなかった。音楽、言葉、そしてコーヒーの香りが、ふたりを静かに結びつけていた。
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第七章:まだ冷めない
ある夜、遥斗は智彦に言う。
「僕、ここに来てから、ずっと心が温かいんです。……それって、あなたのせいですよ」
智彦は、少しだけ目を伏せてから、遥斗の手をそっと握った。
「それなら、冷めないうちに言うね。……僕も、君に出会えてよかった」
ジュークボックスから流れるのは、《Autumn Leaves》。ふたりの秋は、まだ終わらない。
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終章:冷めないうちに
「ウォームホーム」は、今日も静かに灯りをともしている。
窓辺には落ち葉が舞い、クラシックジャズが流れる。
遥斗と智彦は、言葉よりも深く、音と香りと時間の中で、少しずつ心を重ねていく。
ふたりの物語に、明確な終わりはない。
コーヒーが冷めないうちに交わされた言葉は、これからも静かに、温かく、ふたりの間に残り続ける。
そしてこの物語の続きは――
> 後は、貴方たちの心の中で完結させてください。
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今日のは知り合いの人と考えた少しえちの、BLです(・ω<)
少しお楽しみください!
9/26/2025, 3:02:16 PM