この国の国民は、全員、自分の役を演じている。
表の顔は小学生で裏の顔は名探偵。
表の顔は高校生で裏の顔は義賊。
そんな風に誰しもが裏の顔を隠して生きている。
昼の間は表の役に徹し、夜になると裏の顔が動き出す。
昼と夜の顔を混同しないこと。
夜の顔に気づいても昼に持ち込まず、知らないふりをすること。
それが、この国のルール。
だというのに。
「ねぇ、井ノ上くん。手を組もうよ」
「一体何の話ですか、宮内先輩」
これこれ、と宮内先輩が見せてきた新聞には、最近流行りの猟奇殺人事件の詳細が書かれている。
「犯人見つけたくない?」
「そんなことただのひ弱な男子高校生には荷が重いですよ。他をあたってください」
嘘つき、と雄弁に書かれた瞳をスルーし、僕は珈琲を淹れる。
「手柄はきみに譲るよ?」
「他人に譲って得られる手柄はつまらないので」
「う~む。手強い」
天を仰ぐ宮内先輩に僕は人差し指を口元に当てた。
「その話は、月の住人になってからで」
微笑む僕に宮内先輩は笑う。
「それは、無理」
7/14/2024, 10:48:46 AM