一尾(いっぽ)in 仮住まい

Open App

→夜、去る。

そして、夜行バスは出発した。
遠ざかるバスターミナル。
後ろに小さくなってゆく。
私は振り返らない。
絶対に振り返ったりしない。
太ももの上に置いた手を固く握りしめる。
緊張は、まだしばらく解けないだろう。
後ろに小さくなってゆく、町。
生まれ育った町。
大嫌いな町。
田舎で、凡庸で、誰もが知り合い。
歴史で習った五人組制度を地でゆく近所付き合い。
寄り合いとか、町内会、共同体の極地。
遠慮なくプライバシーに踏み込んでくる。
仲の良いフリの腹の探り合いは愚かだ。
私は、彼らに溶け込んたりしない。
私は、彼らに迎合したりしない。
私は、私一個人なのだから。
窓から風景を見る。
遠くに町の明かり。
私の育った町の明かり。
さようなら。


テーマ; そして、

10/30/2025, 3:42:08 PM