繊細な花
じゃあ君はこっち。玄関前に。
はい。
それで君はあっちの塀の前に。
うん。わかった。
じゃあまずは玄関から。ここの空いてるスペースに君を植えます。
はい。お願いします。
うんしょ。うんしょ。よし。水をたっぷりあげて……。完成。これからよろしくね。じゃあ次は塀の方へ。
うんしょ。うんしょ。よし。水をたっぷりあげて……。完成。これからよろしくね、芙蓉さん。
は?おれ、木槿(ムクゲ)だけど。
え?
よく見ろよ、雌しべがまっすぐだろ。
あ、ほんとだ。
芙蓉のやつは、うえに曲がっているはずだぜ。
僕は、慌てて玄関に走る。雌しべは……。上に向いて曲がっている。
あの、君、お名前は?
え、あの、私、芙蓉ですけど……。
そ、そうか。
なにかありました?
い、いや別に。ちなみに君の花言葉は?
繊細な美、です。
そ、そうか。
あの、なにか?
いや。ちなみになんだけど、木槿くんの花言葉知ってるかい?
繊細な美、だったと思います。
そ、そうか。えぇっと。とにかくこれからよろしくね。
僕はまた慌てて塀の方へ戻った。
間違えたんだな。 木槿の花が言う。
ご、ごめん。だって君たちそっくりだから。
ったく。今更文句言ってもしょうがない。まあ、これからいろいろ頼むぜ。
は、はい。
とりあえず、腹減ったから、栄養満点の肥料もらえる?3丁目のホームセンターで売ってるやつ。高い方の。
わ、わかりました。
ちゃんと2人分な。俺たち、間違えられてちょっと傷付いたから。繊細だから。
はい。ごめんなさい。すぐに買ってきます。
6/25/2024, 10:16:10 PM