ストック

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Theme:一筋の光

光が見えた。
纏わりつく暗闇を切り裂いて引き上げてくれるような、一筋の光。
私はその光に向かって手を伸ばした。

アラームの音に目を覚ます。見慣れた天井が目に入る。
「また、この夢か」

幼少期から私はときどきこの夢をみることがある。
自分が本当に存在しているのかさえ疑わしくなるような暗闇に佇む自分。不思議と恐怖はない。
そんな中、前方に突如現れる一筋の光。
暗闇から出たいと思っているわけでもないのに、私はその光に向かって思わず手を伸ばす。

いつもそこで目が覚めてしまう。
私の手は光に届いたのだろうか?その光は私を暗闇の外へ導いてくれたのだろうか?
それとも、届かずに手を伸ばすのを諦めてしまったのだろうか?夢のなかの私はあのまま一人で暗闇に残ったままなのだろうか?
いや、そもそもあの夢にはどんな意味があるのだろうか?

「支度をしよう」
答えの出ないことを考えるのは時間の無駄だ。
いつもの結論に落ち着くと、私は出かける支度を始めた。
この夢についてそれ以上考察したところで意味はないだろうから。

こうして淡々と日々が過ぎていく。
特段心が動かされるようなこともない、退屈だが平和な毎日だ。

その日の夜もまた、あの夢をみた。しかし、いつもと同じ展開ではない。
夢の中で私は前に向かって歩み、一筋の光を目指していた。
いつになく胸が高鳴るのを感じながら、光に向けてひたすらに歩を進めた。
私の手が、確かに光を掴んだ。同時に手を握られたように感じたのは気のせいだったかもしれない。

意識が途切れる最後の瞬間、言葉が見つからないほどの満足感を覚えた。

11/5/2023, 10:51:16 AM