テリー

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「ご機嫌よう」
パシュ、と小さな音をたてて放たれた弾丸が男の眉間を貫く。
真っ白な壁紙が花弁が散らされたように真っ赤に染まる。サイレンサーから燻る硝煙をわざとらしくフッと吹く。
夜景を展望できる窓にはパーティドレスを身に纏った自分が映る。その姿は宛ら舞台役者のようだった。
今回は少し手こずった。だが部屋まで誘い込めればこちらのもの。あとは鼻の下を伸ばすそのふざけた面に、素敵なプレゼントを送れば任務完了。
「ええ、終わったわ」
ピアスを模した通信機にそう告げれば、彼女は煙草に慣れた手つきで火をつけた。
吐き出した紫煙が部屋と肺に満ちていく。そこまでのルーティンをこなして、彼女の胸はようやく満たされる。
銃口を向けた相手の恐怖、苦悶の表情。それが見たくてあえてこの役を買って出ている。
その表情の移ろいを見ると”生”を感じる。
—嗚呼、堪らない。
彼女は剥き出された自分の肩を抱き恍惚の表情で身震いする。
「…これだからやめられないのよ」

≪スリル/また会いましょう≫

11/14/2024, 10:00:19 AM