おや、何かと思ったら庭の楓の木から落ちてきた落ち葉だったか。そんなことを言いながら鼻先をふすふすと足元の葉に近付ければ、緑色を赤色へと変えた葉を未だ大量に抱えた楓の木は「散歩の邪魔をしてすまないね」と枝を揺らした。
「猫は毛色を変えないのかい?」
「変えないね。他の動物には変える奴がいるらしいが」
「変えてみれば良いのに」
「そんなポンポンと変えられるものじゃないんでね」
たしたし、と地面を足先で叩く。
「我々は生まれながらの姿で生き抜くのさ。……成長するにつれ模様が変わる猫はたまにいるが」
「生まれながらの姿か。それも良い。私達は毎年、ひととおりの姿を経るけれど、それはそれで風情があると人間には好評なんだよ」
「知ってらあ。うちの主人もその点を気に入ってお前さんを植えたらしいしな」
楓の木はたいそう満足げに体を揺らした。さやさや、と木の葉が音を立て数枚が落ちてくる。それへと前足を伸ばしてみた。
人間と違い指のない足先は、葉を掴むことはできなかった。
「人間は何かと木々の色合いを気にする。てらいもなく美しいだ何だと口説く。横で聞いているこっちが猫肌もんだよ。――この際だから尋ねるけども、お前さんは何で赤くなるんだ? 空の青でもなく、雲の白でもなく、三毛猫のまだらでもなく、なぜ赤なのか」
「野暮だねえ。赤に染まると言えば、答えは一つじゃないか」
くすくすと楓の木は笑った。陽気なそれは、照れ隠しにも見えた。
「秋だからだよ」
秋、ね。秋ねえ。秋、秋か。わざと繰り返して言えば、楓の木は「相思相愛なのさ」と嬉しげに答えた。
9/26/2023, 2:47:02 PM