私は人間を愛している。
心の底から。
だが愛しているがゆえに、許せないこともある。
人は今いる現状に満足せず、今よりも上を目指す存在だ。
出来ないことを出来るようにし、見えないものを見えるようにし、行けない所にも行けるようにした。
その結果、悲劇も多く生まれた。
しかしそういった人々がいたからこそ、我々は水準の高い生活を送ることが出来ている。
しかしだ。
今の環境にかまけて、何もしないどころか他者の足を引っ張るものが多すぎる。
私はそれらの人間が許せない。
だから私は怪人を使い、無能な人間を一掃しようと計画した。
無能な人間がいなくなれば、よりよい社会になるだろう。
だが計画は進んでいない。
正義のヒーローが邪魔をするからだ。
私はあの男が気に入らない。
なぜ無能な存在を守ろうとするのか理解できない。
無能な人間など、捨てておけばいいものを……
思案に耽っていると、背中に気配がした。
「お呼びですか?」
「来たか。『我が子供』よ」
声の主は、岩怪人イワーノだった。
私の作った怪人の最高傑作の一人。
体が岩で出来ているにもかかわらず、俊敏な行動をすることが出来る。
「例の男の件ですね」
「さすがだな。話が早い」
「奴は兄弟を殺しました。仇を討たねばなりません」
私はイワーノの言葉に大きく頷く。
「私がなぜ貴様らを作ったのか、覚えているな」
「は、無能な人間を排除し、よりよい社会を作るためです」
「よろしい。計画の邪魔をするあの男を消せ」
「は、それでは行ってまいります」
「最後に――」
私が言葉を言い切る前に、イワーノの気配が消える。
私は一人になった部屋で再び思案する。
私はより優秀な人間を生み出すことを目的として、怪人を作った。
だが結果は散々だった。
出来上がった者たちは、知能や身体能力こそ高いものの、暴力的で何かを生み出すということは出来ない。
どちらかと言えば無能な人間に近い。
だが最近それでもいい気がした来たのだ。
最初こそ、無能な人間を排除するのに便利な手駒くらいにしか思っていなかった。
目的を達成した後は、廃棄する予定だった
だが情が移ったのか、彼らが愛おしくなった。
始めは士気を上げるために、『自分の子供』と嘘をついた。
だが今では本当に自分の子供のような気がしている。
いつしか自分の理想とする世界に彼らがいるようになっていた。
彼らの存在なくして、私の理想は達成されない。
なんのことは無い。
私は根本的なところで、正義のヒーローと一緒なのだ。
信念とやらはどうでもよく、自分が愛するもののために戦っているだけなのだ。
イワーノの去った出口を見る。
あの正義の味方は強大だ。
他の子供たちの様に帰ってこないのかもしれない。
それでも私はこう願わずにはいられない。
「どうか無事で帰ってこいよ」
1/30/2024, 9:48:36 AM