秘密の箱
最近は物騒なことが起こらなくて、本当に争いが起こっているのかと不安になる。
そんなことを思いながら、屯所の掃除を行っていた。
ふと、見たことのない箱が淋しげに置かれていた。
新しい薬箱なのかと思い、手に取って片付けようとした。すると、見ていたのか、大きな声で箱を取り返しに来た左之助がいた。
「あ!おい!触んじゃねぇ!」
抵抗する理由もなかったので、左之助に素直に返した。
左之助は、その箱が硝子なのかと思えるほどに、丁重に扱っていた。そんなにも大切にするものだから、中身に何が入っているか気になった。
しかし、左之助はその箱にしか意識が向いておらず、こちらの話を聞いてくれる雰囲気ではなかった。
まあ、気になったら訊く他ないが。
「左之助、その箱は何が入っているんだ」
「ああ?この箱が気になんのか?」
「嗚呼。お前がそんなに物を大切に扱うことないだろう」
皮肉れた言葉をかけても、反応してこないほど箱に意識を向けている左之助は、箱を見つめて少し考えていた。
いつものような活力が漲っているあの大きい背中とは違い、今は小さい子供のようだった。背中を小さく丸めて、自信のなさが表れていた。
「……これは、秘密の箱だから」
「秘密?」
「俺の、大切なものが入った、大切な箱」
そう言うと、安堵するように微笑んだ。
「中身は、教えてくれないのか?」
すると左之助は、ゆっくりと俺の方向を向いて、目を瞠いた。
先程のような弱々しい姿はなくなり、いつもの姿に戻っていた左之助は、思いっきり俺を指さした。
「齋藤、普通訊くもんじゃねえだろ。こういうのは」
「……すまない」
左之助は大口を開けて笑ったあと、何処か寂寥感の感じられる表情をして、遠くを見た。
「まあ、いつか見せてやるよ」
「そうか」
「俺が死んだ時は、お前がこの箱を持ってろ」
突如そんなことを言うものだから、俺は唖然としてしまった。
「俺が、……お前より長生きする保証はないだろ」
「だから、長生きしろよって話だ」
俺の肩を強く叩くと、アイツは部屋を出ていった。
10/24/2025, 11:41:43 AM