にえ

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お題『手を繋いで』

 今日は主様の夢だった、自筆絵画の展示会初日。会場は悪魔執事に友好的な人物の所有する画廊だ。
 主様は画廊のオーナーに挨拶をすると、絵の一点一点を説明して回っていた。中には主様の絵画生活の原点である、2歳頃の元気な赤マルを描いたものもある。『Dear my Butler』と名づけられたそれは、俺が大事に保管していたもの。主様は最初それを展示することを恥ずかしがっていたけれど、展示会の幕が開くとその絵が来る人くる人大絶賛で、
「あのー、私、最近の絵も相当頑張っているのですがー」
と言って苦笑いをしていた。

「***、盛況だな」
 主様が画廊のオーナーと別れてから、しばらくは来場者たちとの談笑していたその隙間を縫って、件のパイ屋の青年がやってきた。
「あら!? 来てくれたのね」
「絶対行くって言っただろ? ほら、これ」
 そう言って彼は花束を差し出した。
「ささやかだけど、夢を叶えたお祝い」
「ありがとう! それじゃあ、えぇと……」
 主様は俺を見上げてきたので、笑顔を貼り付けて手を差し出した。
「お花、お預かりしますね。大事な方に作品の説明をして差し上げてください」
 ありがとう、と言った主様はごく自然な動作で彼と手を繋ぐ。それは未だ子離れの傷口が塞がらない俺にとっては、心をチクリと針を刺された気分になるには十分だった。

 ついでに言うと、彼にも『Dear my Butler』は大好評だった。

12/10/2024, 10:56:52 AM