かたいなか

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「色彩学じゃ無色と透明は別。それは覚えた」
去年のお題の「無職」はバチクソ悩んだな。物書きは回想し、濁りを伴う透明スープから麺をつまむ。

「別に、『透明』の字が入っていれば、半透明だろうと不透明だろうと、無色透明だの透明性だのだろうと、それはそれで良いんだよな?」
透明な水、半透明なガラス、不透明な社会に、透明性を欠いた課金履歴。今年は何を書くか。
物書きは麺を食い、突発的な熱の痛みに悶絶した。

――――――

最近、100均に売っている3個パックのチキンラー×ンがマイトレンドの物書きです。
量こそ少ないものの、透明なスープを全部飲んでしまったって、総塩分量は1.5g。
粉々にしたチキン▽ーメンにレトルト白がゆ。乾燥野菜と柚子胡椒を少し入れて、ひと煮立ち。
不透明なお夜食、チキン雑炊だか、チキンおじやだかの完成……と、いうハナシはこの辺にして。

最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の宿坊は、稲荷神社を管理している家族の自宅でもありまして、
そこには人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く、暮らしておりました。
そうです。この稲荷神社には、本物の御狐様がおるのです。とても不思議な神社なのです。

さて。 そんな不思議な神社の宿坊には、
近所の一般都民のほか、「ここ」ではないどこかの世界から来た異世界人も、
東京では貴重な自然の静かさと、お母さん狐の滋味深いごはんを求めて、または稲荷の御狐の不思議なチカラを借りたくて、時々、やってくるのです。

その日、稲荷神社の宿坊に来たのは、「この世界」を他の世界からの密入出や、侵略なんかから守っている「世界線管理局」の局員さん。
ビジネスネームを「ツバメ」といいます。この世界でひとつ、任された用事がありまして、
その用事のついでに宿坊を予約し、静かな和室でゆったり、事務作業をしておるのです……が。

実はこの宿坊、遊び盛りの子狐がおりまして。

「あそんで、あそんでっ」
たしたしたし、カリカリカリ!
ツバメが優しい、ちゃんと遊んでくれる大人だと知っている子狐は、尻尾をぶんぶんぶん!
ですがここで、今回のお題回収です。
コンコン子狐のお母さん、ツバメが仕事に専念できるよう、不思議な術でもってツバメの周囲に、
透明ツルツルな壁を生やしてしまったのです!

「おじちゃん、コーヒーのおじちゃんッ」
たしたしたし、カリカリカリ!
ツバメのところに行きたくて、子狐コンコン、透明な壁を小ちゃなお手々で掘ってるつもり。
だけど透明でツルツルな壁は、ちっとも、少しも、びくともしません。

「もう少し待ってくれ」
おじちゃんと呼ばれるには若いツバメは、大事な大事な事務作業をしながら言いました。
「あと1時間……いや、40分。それだけあれば、作業が全部終わる。そしたら、一緒に遊ぼう」
とっても大事な仕事なんだ。ごめんね。
ツバメはそう付け加えると、作業に集中し直そうとして、しかしちょっと子狐の方を見て、

「ぎゃぎゃっ。ぎゃ、ぎゃ、」
キュキュッ、きぃきぃ!
お手々でびくともしなかった壁を、今度は小ちゃな牙でもって噛みたいらしい子狐が、それこそ窓に向かってそうするように、
口を開いて、噛もうとして、上手くいかなくて、
舌をベロンチョ出したりべろんべろん舐めたり。

結果として、子狐が舌を出して変顔している状態になっているのを、ツバメ、見てしまったのでした。

「ぐっッ! っふ、 くっ……!」
お母さん狐がツバメに淹れてくれたデカフェコーヒーを、あぶなく吹き出しそうになったところで、
ツバメはなんとか、踏み止まります。

ツバメの気持ちなんて、子狐コンコン、知りません。ただただ遊んでほしくて、ツバメと自分を遠ざける透明ツルツルな壁を壊したくて、
カリカリカリ、お手々で掘ろうとしたり、
キュッキュッキュ、牙で噛もうとしたり。
一生懸命、頑張っておったとさ。

3/14/2025, 6:43:40 AM