『きっと明日も』
本屋でたまたま目にしたおまじないの本に妙に惹かれてしまい、母にねだって買ってもらったのはずいぶんと昔の話。おまじないだけでなく魔法使いのなり方までもが書かれていたその本に衝撃を受けた私はその日から今日に至るまで毎朝魔法の練習を続けている。けれど成果はいまだに目に見えてはこない。
集中しているさなかにひそひそと聞こえてきたのはいつの頃からか聞こえるようになった家庭菜園に植わっている野菜たちのボヤキ。やれ水が足りないだの葉っぱの密度が高すぎるだのの文句を解決していくと、次第に声も聞こえなくなっていった。
気を取り直して深呼吸の後に手をバッと前に出す。
「出でよ炎!」
手のひらからは何も出ない。カッコいい攻撃魔法をバシッと決めてみせるという夢は昨日に引き続き叶わなかった。
「もうちょっとな気がするんだけどな……」
「それ10年前も言ってたね」
朝日差す庭先にて首を傾げる横で母は洗濯物を干し終え、家に戻っていった。
10/1/2024, 5:14:17 AM