ミントチョコ

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題 愛を注いで

愛を注いで

私は足りない。

愛が足りないの。いつも不足してる。
誰にも愛されない気がしてる。
人生でいつも1人だと思ってしまう。

だからいつも試してしまう。
私のこと好きなのかどうか。

それで、やっぱり分かる。相手は私のことなんて好きじゃないんだって。

「私、誕生日にはあのこないだ言ってたブランド指輪とネックレスが欲しいな」

「え、まだ俺学生なんだけど・・・」

大学になった私は相変わらず試してしまう。
そんなことしたって仕方ないって思うけど、他にやり方を知らないの。


「えー、私のこと愛してるなら買ってくれてもいいじゃない?それとも愛してないの?」

「いや、そりゃ愛菜のことは好きだけど・・・」

「じゃあどんなことしても買ってくれるはずだよね?彼氏でしょ?ね?」

「・・・分かったよ・・・」

渋々言う彼氏の腕に抱きつく。

・・・これで愛されてるって実感できる。
無理しても私の為に動いてくれたんだから、私のこと愛してるって証明だもんね。

彼氏が暗い顔でため息を吐いている表情を私は見逃してた。 


次の週、私は大学のベンチで沈んだ顔で座っていた。

なぜなら一昨日、いきなり彼氏から別れようって言われたから。

プレゼントとか高すぎだし、ワガママだし、私の存在が重荷だって言われた。

こういうことが何度もある。


ほらね、ほら見なさいよ。
みんな私のことなんて嫌いなんじゃない。

私のこと好きでいてくれる人なんて誰もいないんじゃない。

私の望み一つ叶えてあげたいっていう気持ちなんてないんだから。

だから、私も世界が嫌いなのよ。

好かれなきゃ好きになんてなれない。


「あっ、ねえねえ、プリント取ってくれる?」

そんな破滅的な気持ちでいた私の耳にいきなり声が聞こえてきた。

声の方を見ると、ひらひら風に飛ばされてるプリントを頑張って追いかけてる男性が近づいてくる。

掴もうとしては、風に翻弄されてる。

その光景が可笑しくてクスッと笑うと、私は足元にやってきたプリントをすくい上げると、男性に手渡す。

「追いかけっこ、お疲れ様」

「あはは〜カッコ悪いとこ見られちゃったね」

・・・なんだろ、この人全体的にほわほわしてるな。
猫っ毛で笑顔が何か可愛い。

「このプリントね、あ、見てみて、これね、来週絶対落とせないテストのプリントなんだ、君も取ってる?」

「私は取ってない」

「そっか〜、詳しかったら教えて欲しかった〜!」

泣きそうな顔して私に訴えかける彼。

「え?そんなに自信ないの?」

「うん、絶望的、頑張って覚えようとするんだけど、何故か何度繰り返しても覚えられないんだよね、暗記のコツとか知ってる?」

「暗記のコツ・・・何だろう、繰り返すことだと思うけど、朝と夜とか時間おいて」

私は彼の勢いに飲まれて答えていた。

「ああ!そっか、時間おいてね、君って天才じゃない?!可愛い上に天才!!」

「可愛くなんてないよ」

大げさに褒められて、つい冷たく言い返す。

「え〜どこが?」

「え?」

すっごくびっくりされた顔をされて、私の方がむしろびっくりする。

「どこが可愛くないの?むしろ可愛さしかないよ?」

「ちょっ・・・」

何を言ってるんだろう、いきなり。

直球すぎる言葉に私が言葉を失ってると、楽しそうに、プリントを眺めながら彼が続ける。

「このプリント拾ってくれたしさ、暗記の方法教えてくれたし、君って本当に性格いいし、可愛いよ」

純粋な笑顔を向けられて思わずキレイ・・・とか思ってしまう。

何だ何だキレイって。訳わからない感情が湧いてしまう。

彼が純真な笑顔を向けてくるから、そう思うのかな。
オーラかな。

こんな子、初めて会ったかもしれない。

「お世辞でしょ」

とか可愛くないこと言ってるけど、彼が本気なのは、何となく分かった。
本心言ってくれてるんだろうなって。

「お世辞?何で?お世辞なんて言わなくてももうこんなに親切で性格良くて可愛いのに?」

「わー、繰り返さなくていいからっ!!」

何か、なんか調子が狂う。

「あ、そんな風に慌ててるのも可愛い」

「ちょっと、黙ってて欲しい」

私が動揺して何だかうるさい心臓を抑えながら言うと、彼は心配そうに私を覗き込む。

「大丈夫?医務室一緒に行こうか?」

「だ、大丈夫・・・」

何とか答えると彼はまだ心配そうな顔で私を見つめている。

「でも、胸が痛いんじゃ・・・?」

「大丈夫だから・・・じゃあね」

私が立ち上がろうとすると、動揺のあまりよろけてしまう。

「あっ!危ないっ!」

彼が咄嗟に私を支えて引き寄せる。

彼の顔が至近距離に迫る。

「大丈夫だった?やっぱり気分悪いんじゃない?心配だなぁ」

そう言いつつ、私のおでこに手を当てる。

「熱は、ないね。でも、やっぱり医務室、行く?」

「・・・大丈夫」

何だろう。動悸が止まらない。

変だ。変すぎる。

「じゃあ次授業?次の教室まで付き添うから教えて何の授業?」

「・・・情報処理」

抵抗できずに、素直に答える。

「うん、情報処理か、じゃあ一緒に行こう、付き添わせて、ね?」

・・・本当に不思議なんだけど・・・
私この人と一緒にもう少しいたいって気持ちになっていた。

手を差しだされて素直につなぐ。

・・・自分の気持ちがわからない。

全然わからないんだけど、何だか違う、今まで会った男性と違う、この人。

雰囲気も言葉も、私に刺さる。

楽しそうに、鼻歌を歌う彼を見て、思わず優しい気持ちになってクスッと笑ってしまう。

心がウキウキと弾むようなそんな感覚を覚える。

この人に何か買ってもらわなくても気持ちが伝わるって思ってしまった。
試さなくても気持ちが分かるって。

不思議な気持ちが沸き起こってきて、私自身びっくりだ。

何か恋が始まったわけでもないのに、ただ少し話しただけなのに。

私の中で、何かが急激に始まってしまいそうな予感が、止まることなく私の心をガンガンと打ち鳴らしていた。



12/13/2024, 12:48:23 PM