音ノ栞

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誰かのためになるならば、自分のことを犠牲にしても良いと思っていた。

だから、僕はずっと何一つ文句を言わず業務を続けてきた。

休みの日も惜しまず業務を続けた。

そうしているうちに、僕のことを「働き者だ」「優等生だ」「模範生だ」と言われるようになった。

でも、それは違ったと気づかされた。
それはたった今。

急に僕の身体は動かなくなった。

目も、思考も、動き続けるのに、身体だけはぴくりとも動かない。

手も、足も、首も、指先すら、動かない。

……僕はもう、何もできなくなってしまったのか?

あぁ……そうならば、もっとやりたいことやっておけば良かったなぁ。

あの中華料理屋にまた行きたかったなぁ。
いつものラーメン、食べたかったなぁ。
また友達の彼と遊びに行きたかったなぁ。
今やってる話題の映画、観たかったなぁ。
彼女とも一緒に遊びたかったなぁ。
というかもっと彼女を大切にすれば良かったなぁ。

……なんて、今更、か。

なんだか……なんだか、悲しい。
もっと、人生、楽しめば良かったなぁ……。

僕の目から涙が出てきた。

涙が零れた瞬間に、目が醒めた。

そして、気づいた。
あぁ、夢か、と。

僕はホッとしたのと同時に、
自分のために時間を使いたくなった。


窓越しの朝日が、昨日と違って見えた。



■テーマ:誰かのためになるならば

7/26/2023, 1:06:49 PM