【目が覚めると】
教室で目を覚ますと、見つけてしまった光景に思わず息を潜めた。
放課後のひと時。夕暮れを取り込んだ三年生の部屋は、穏やかな夕陽の光に包まれている。
規則正しく並んだ木製机の一番後ろの席に俺はいた。両手を枕に、うつ伏せになって寝ていたのだ。
普段なら、俺以外は誰もいないはずの場所。
なのに。
ーーなんだ? あれ。
俺の目に飛び込んできたのは、学校でも有名な女子生徒が誰かを膝枕をする姿だった。
後ろ姿しか見れなくてもわかる。
藤原だ。文化祭のミスコンで一位に輝いたこともある美女が、斜め前に離れた席にいた。
二人は俺が起きたことに気づいてない。
出来心で、寝たフリをして盗み見る。
長い髪の藤原が、愛おしそうな目で、膝の上の人物へと話しかける声が聞こえた。
「……ずっとこのまま、一緒にいれたらいいのにね」
こんなに好きなのに。
艶を帯びた視線。切なさを噛み締める乙女のセリフに、俺の期待は高まった。
ミス藤原に恋人がいたのか!
相手は、誰だ?
音を立てないようスマホに手を伸ばす。誰もが知りたがるスキャンダルに、緊張する手でカメラアプリを起動した。
知りたい。
藤原の恋人を。
薄目を開けながら、必死に息をころす。写真の一枚くらい撮れたら、なんて好奇心が魔をさした。
けど。
写真を撮ろうとする心は、相手の顔を見て打ち砕かれた。
「ダメだよ先輩……私達のことがバレちゃう」
膝枕から頭を上げたのは、ーー紛れもない俺の妹だったからだ。
……え? 嘘だろ?
なんで?
……まさか、レズ??
「もう部活に戻らなきゃ」
俺が寝てると信じてる二人は、あたりに視線を配った後に触れるだけのキスをした。スカートを靡かせて教室を後にするまでに、変な汗がどっと出たと思う。
俺は一人になった教室で、スマホの画面をオフにした。ボタンを押す指が震えるのは気のせいではない。
とんでもないことを、知ってしまった。
騒がしい胸を押さえながら、絡まった思考回路で考える。
一つわかることがあるなら……今夜はもう、ぐっすり眠れそうにない。
7/10/2023, 11:40:15 AM