せつか

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別に冬だから寒いわけじゃない。

彼はそう言って、いつもよりゆっくりとした足取りで歩き出した。
少し歩いては立ち止まり、首を巡らせる。
そんな彼の後ろをついて歩きながら、私は私と出会う前の彼のことを想像してみた。それは想像でしかなく、彼が語らない限り決して分かるはずのないものだったが、それでもその時彼が感じたであろう温度、のようなものくらいは感じ取れるのではないかと思った。

「私と母と、あとは使用人が片手で数えるくらい。……こんなだだっ広い城なのにな。その使用人も、ひと月もたない」
高い天井を見上げる。丸い窓には小さく月がかかっていた。
広大な城をゆっくり進む。時折立ち止まり周囲を見回す彼は、自分が生まれ育った城を懐かしんでいるようだった。

応接室らしき部屋に着いた。
「体裁を整える為に造ったんだろうな。この暖炉に火が入ってるところなぞ、ついぞ見たことはなかった」
高い天井、宝石で飾られたシャンデリア。彫刻の彫られた暖炉。豪奢な家具に、大理石の床。
美しい部屋ではあったが、どこか寒々としていた。
「寒いとか暑いとか、そんな感覚も無かった」
抑揚の無い声は、わざと抑えているのだろう。

広大で、華やかな城はだが、とても冷えている。
それは彼の言うとおり、冬だからでは無いのだろう。
「ここで私は育った」
そう言った彼の低い声が、私の胸に深く沁み渡っていく。
「ここが私を造った場所だ」
城の最上部。荒野を見渡す展望台でそう言った彼に、私は無意識に手を伸ばしていた。


END


「寒さが身に染みる」

1/11/2024, 3:25:05 PM