ミヤ

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"失われた響き"

歌を聞くのは楽しいし、色の波がどこまでも広がっていく様子を見るのは好きだ。
でも自分で思い切り歌うのは難しい。
というか、幼い頃は全く駄目だった。

声を出さないことが癖付いていたから、いざ歌おうとしても空気を吐き出すだけで何の音も生まれないし、無理すると過呼吸を起こしてぶっ倒れる始末。

それでも彼女が紡いでいた歌を頭の中で繰り返し辿り、言葉の意味も分からず口の形をただひたすらになぞった。
全てが過去へと変わり、思い出となって朽ちてゆくとしても、かつて目にした彼女の音が決して失われないように。

記憶の中の響きだけは他の誰のものでもない、僕だけのものだ。

11/29/2025, 4:43:25 PM