「実は、僕は君の目を見つめたいと、ずっと思っていたんだ」
「うん」
「だけど、それが叶わないのは分かっている。どうしようもないのは分かっている。だけど、それでもどうしてもこの気持ちは抑えられないんだ」
「うん」
「だから、これがもう最後かも知れないけれど、ぼくは自分の意志で、そうなるよ」
「うん」
「君に責任はまったくない。それだけは覚えていてほしい。そして、もしも、君が憶えていてくれるというのなら、ぼくの最後の言葉も、心の何処かに、置いておいてくれると、嬉しいな」
「うん」
「じゃあ、そろそろ、その目を開けて、こちらを見てくれないかい。大丈夫、どうやら最初は手の先、足の先から変化していくようだし、少し余裕はあるよ」
「うん」
「それじゃあ、これでお別れだ。ありがとう」
そうしてぼくは、ゆっくりと開いていく、彼女の双眼と目を合わせた。
「やっぱりだ。やっぱり君の瞳は、どんな宝石よりも綺麗に光り輝いている。君は女神なんかより、ずっと、ずっと美しい………」
自分たちで未来の芽を摘み取ってしまうほど著しく進歩したこの世界には、いつの間にかどんな未来も石に変えてしまう奇病が流行した。
『ゴーゴンシンドローム/石蛇症』
感染者の瞳を見た者は、次第に身体が石に変化していき、最後には彫像のようになってしまう。
それ故に、病に侵された者は、その後一生、目を開けることが許されない、非情の病。
現状、現代科学の粋を集めて、病の打倒を目指しているが、成果は乏しく、治療方法は見つかっていない。
だが、打つ手のない感染者に対して、副次的に生み出される『生きた石像』は、ついぞ人類の手が届かなかった『永遠の命』への手がかりとなり、そこには病的なまでの信仰が生まれた。
狂信者たちは、『永遠の命』を生む者たちを『とわの女神』として崇め、奉り、そして教会へ閉じ込めた。
これは、神にされてしまった少女と、『永遠の命』たちの物語。
4/7/2024, 12:54:53 AM