『夢でしか会えない』
チチチチと鳥の鳴き声が聞こえる。もう朝か……と思いながら目を開けた。まだ覚醒してない頭で、もう少し寝ていたいとぼんやり考える。布団の暖かさに甘えてもう一度寝ようと寝返りを打った。
目に入ってきた景色に目を丸くする。至近距離の彼の顔があったのだ。すうすうと穏やかに寝息を立てて寝ている。少しでも動いたら唇と唇がくっついてしまいそうだ。そんな息遣いが分かるほど彼との距離が近いことに色んな感情が溢れ出してきた。
「う、うわぁ!」
叫び声を上げながら後ろに後ずさる。俺の動きのせいで掛け布団が大幅に乱れた。ベッドから落ちそうになり、肝が冷える。よく見ればそのベッドも俺が普段使っている物とは違った。
俺の叫び声のせいか、布団の暖かさを失ったせいか、彼がゆっくりと目を開ける。目を丸くして凝視している俺に向かって彼は寝ぼけ眼のまま「おはよう」と微笑んだ。寝起き特有なのかいつもより低い声も、目を細めて笑う顔も、知らないことだらけで頭が混乱する。と同時に胸が高鳴った。自分でもわかるくらいに顔が熱くなる。
体を起こして大きく伸びをしている彼が俺を見て可笑しそうに吹き出した。
「どうした、顔真っ赤だぞ?」
「え!?」
頬を押さえる俺を見て更に笑う彼。そんなに笑われるとなんだか恥ずかしかった。
笑い終えたらしい彼がベッドから立ちあがる。
「今日の朝ごはん当番は俺だったよな。その布団、ちゃんと直しておけよ」
そう言い、彼は扉に向かう。声をかける前に扉の奥に行ってしまった。
「まっ、待って!」
彼を追いかけるように扉を開ける。眩しい光が目を差した。思わず目を瞑る。
ーー
「っ!」
大きく息を吸い、目を覚ます。まず目に入ったのは見慣れた木の天井だった。周りを見渡しても目に映るのは、いつもの自分の部屋の景色だ。
「夢、だったのか…?」
夢の彼を掴もうとした手を見つめていると、記憶が溢れてきた。
疲労感にまみれる自分の体、荒い息遣い。そして、傷だらけで地面に倒れている彼。
「あぁ…そうだ……」
彼の命の灯火が消えるのを俺は目の前で見た。
「ふ、ふふ」と口から笑いが漏れる。彼が敵になったとしてもこれが俺の本心なのだ。
ーもう彼はこの世にいない。
「俺が、殺したんだもんなぁ……」
壁に寄りかかり、目を閉じる。
目を閉じれば、夢の彼にまた会える気がした。
【君は今】
2/26/2026, 3:46:10 PM