日陰
いつも来る市民図書館の、中庭。憩いの場として設けられたのだろうが、お昼を過ぎると途端に日が入らなくなるせいか学校終わりに来る頃にはいつも誰もいない俺だけの特等席のはずだった。
今日も今日とて適当に選んだ本を片手にやってきた俺はなんだかいつもと違うような雰囲気に、癖で俯きがちな顔をあげると、どうやら珍しくも先客がいるようだった。
ああ、失敗した。見覚えのある制服姿にふとそう思ったけれどよくよく見れば先客はこちらに背を向けている。
2月も末に近づいてやっとほんのりと温かみを感じるようになった風に撫でられて、中庭に僅かに差す日差しで成長した雑草たちが嬉しそうに踊っている。本格的な春の兆しにそわそわしているようなそんな中庭に立つ少年は真冬のぴりっとした寒さを纏った様な凛とした佇まいでそこに立っている。
気づかれてしまう前にさっさと逃げようと思っていたはずなのに。俺はまだ動けないでいた。
1/29/2025, 4:02:39 PM