某ゲーム二次創作
「…また〝車〟の調子が悪いですね…。」
「また?ってトラブルは一昨日もあったわよね?」
「ナタリー降りてあっちのタイヤ見てくれないかい?」
「はーい。」
私はバーバラ、踊り子であり小さな劇団の座長でもある。
会計のエルマン、歌い手のナタリーがメンバーだ。
この〝車〟は大都市のごくごく一部でしかまだ流通していない代物だが私をご贔屓にしてくれる太客に懇願して1台なんとか融通して貰った奴だ。
移動は勿論のこと興行の際には〝車〟を見たこと無い地域のお客様には大いにアピールできる大変高価な代物なので本当に重宝している。
しかし正直オイルの値段がバカ高いしこうしてトラブルが起きては馬車の方が良かったんじゃないかなと思う時が度々ある。
今は多くの地域で収穫祭が行われる書き入れ時なのに肝心の「足」が使えないんじゃね…。
ここはフロンティアのニューロード。
モンスターが多い地域だがチャンスがこれから沢山出てくるであろう期待の地域だ。
皆が我先に開拓に日々勤しんでいる、そんな地域に〝車〟なんて持って行ったら注目されるに違いないのに。
時間だけが刻一刻と過ぎる。
「皆が待っているんだよ…早く直して…。」
「宝石の化け物に見つかりませんように…。」
「エルマンさん!不吉なこと言わないで下さい〜。」
風の噂では街道には宝石を纏った巨大モンスターもいるらしい。
人を食べたり何もかも壊して回るとか村が全滅したとか嫌な噂はあちこちで聴いた。
まさか〝車〟は食べられないわよね、あれが私の全財産に近いから…。
空に渡り鳥が群れをなして飛んで行く。
秋風を捕まえ高く飛んでいく鳥達が私は羨ましかった。
「姐さん、ボルトが一つ緩んでいたようです。悪路を通った時の影響でしょうかね。」
「上等!行きましょう着いたら速攻で仕度するよ。」
「お願いなるべくスピード出し過ぎないで…。」
「ナタリー、外の景色を見ていなさい楽しいわよ。」
街道は至極単純真っ直ぐだ。
目的地は昼過ぎてからだろうけど収穫祭の夜の部には間に合う。
私は踊ることしかできない。
この仕事は浮き沈みが激しいけれどそれは承知。
辛い時もあった、リスクは常に付いて回るものだから。
でもナタリーは天性の歌声を持っていて才能がある、エルマンも会計の傍らいい戯曲を書く。
この3人で成功したい。
街道の向こうには私達を楽しみにしてくれる人達が待っている。
もし例え一人でも楽しみにしてくれる人がいるのならその人のために踊り続けるだろう。
「頑張って行きましょう!」
「合点です。」
「はい!」
エンジン音がけたたましく鳴り響き〝車〟は動き出した。
秋風と共に軽快に走り出す。
「秋風」
11/15/2023, 7:39:37 AM