12.七夕 兎黒大
「澤村さん短冊かけました?」
俺は何やらうんうん唸っている木兎を後目に澤村に問いかけた。俺たちは通路の一角を占めている七夕コーナーで短冊に願い事を書いている。
元々腹ごしらえのためにこのフードコートのある大型ショッピングモールに入ったのだが、流石というべきか、やはりと言うべきか木兎が目ざとく七夕コーナーを見つけてきたので俺たちは腹ごなしにここにやってきていた。
「改めて考えてみるとなかなか難しいな」
そう言って難しい顔をする澤村に、澤村さんは強欲なんですねなんて軽口を叩けば横目で睨まれてしまった。
「そういう黒尾はもう決まってるのかよ」
そう聞いてくる澤村に俺はニヤリと笑って答える。
「もちろんですとも。俺は澤村さんと違って心が綺麗ですから」
澤村は手元の短冊に目を向けたままその顔でよく言えるななんて突っ込んでくる。
「できた!」
先程まで割かし静かに唸っていた木兎が突然大きな声を上げる。木兎に掴まれている短冊には「赤葦に小言を言われませんように」と書かれている。
「木兎…。織姫と彦星はそんなことを願われても困るだろ」
俺がいたたまれない気持ちで黙っていると澤村が呆れながら木兎から短冊を奪う。それに対し木兎は不服そうに何かぶつくさと呟いている。
「2人ともひでーな。俺にとっては重要なことなんだよ!」
「あーほら、もっと具体的に願い事をしないと願い叶わねーかもしんねえぞ」
俺の言葉に確かにと一つ頷くと木兎はじゃあ赤葦に朝もっと優しく起こして欲しいとか赤葦が好き嫌いしても怒らないで欲しいとかかなぁと言いながら新しい短冊を準備し始めた。
俺は赤葦に同情しながら木兎を見守る。赤葦、俺と澤村はお前の味方だからな。
「ところで澤村さんは願い事、決まりましたか?」
「そうですねー、黒尾さんのその腐りきった性根をどうにかしてもらいましょうかね?」
7/7/2024, 10:58:14 AM