海月 時

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「本当に役立たずだな。」
俺は思い知った。今まで見てきたものは幻想なのだと。

「良く出来ました。」
俺は、優秀だった。昔は勉強が嫌いだった。しかし、教育熱心な両親はそれを許さなかった。常に上へ。それが俺の家の教えだった。俺が間違えると、両親は冷やかな目で俺を見た。それがただ怖くって、たくさん努力してきた。次第に周りから称賛される度に俺は優越感に沈れた。
「お前は出来の悪い息子だよ。」
小学校と中学校では、通う生徒はほぼ変わらなかった。だから、今まで一位をキープできた。しかし、高校ではレベルの高い生徒ばかり集まっているため、俺の成績は次第に下がっていった。その都度、両親からのプレッシャーは増えていった。毎日、勉強。それでも、結果が変わる訳もない。俺の心は、崩れていった。

『何してるの?』
誰だこいつ?てか、なぜ俺の部屋に居るんだ?
『あ、お邪魔してます。』
今更かよ。それにしても、ドアに鍵を掛けたはずなのに。
「見れば分かるだろう。首吊り自殺だよ。」
『死んじゃうの?自分で?』
「これまでずっと積み上げてきたものも、全部を否定されたんだ。嫌にもなる。」 
『これは君の人生であり、物語だ。君が物語を進めるか終わるかは、君が決めるべきだ。』
話が掴めない。普通人間の場合、俺を止めるだろ。
「それより、お前は誰だ?何のために来た?」
俺が聞くと、彼は静かに笑った。
『僕は死神。君を死へと誘うために来た。』

あいつは死神だったのか。だから、鍵が掛かったドアを通る事が出来たのか。
「死神さん。あの世はどんな所なんだ?」
『苦などない楽園だよ。』
死神もあの世も、科学では証明されないもの。それでも、俺は信じようと思った。俺がこれまでずっと積み上げてきた全てが偽物だとしたら、この世界で偽物だと言われた事が本物だと、俺は信じたかった。

7/12/2024, 2:11:45 PM