わたあめ

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雲ひとつない青空の下、志保はベビーカーに娘のゆめを乗せて散歩に出かけた。
人々は仕事や学校に行っている時間なのだろう。すれ違う人はほとんどいない。夏は暑過ぎて太陽が西に傾いてからでないと外出できなかった。その時間になると行き来する人の数がどっと増える。産休に入るまで会社で働いていた志保も人の多い時間のこの街並みしか知らなかった。
「人がいないとこんなに静かなんだ」周りを見ながらゆっくり歩いていると意外にも自然豊かな事に気がつく。ポツポツと小さな公園があり、家々の生垣には様々な植物が植えられている。
小さな白い蝶がベビーカーの前をひらひらと舞っている。「おばあちゃん」志保はそっと声を掛けてみた。

母方の祖母が亡くなったのはまだ梅雨入り前だった。
長らく入院していたから遠くない未来にこの日が来ることはわかっていた。覚悟というか諦めというか、母も叔母も心の準備ができていたんだと思う。動揺することも嘆き悲しむ事もなく、時折思い出したかのように涙を拭っていた。
滞りなく葬儀が終わり、火葬が終わるのを待っていた。志保は親族待合室を抜け出して火葬場の中庭にやってきた。
ベンチに座り空を見上げる。この日も雲ひとつない青空が広がっていた。
「ひいおばあちゃんに会えなかったね」志保はお腹を撫でながら呟いた。目の前の花壇には小さな白い蝶が舞っている。滑らかな蝶の動きを見るとはなしに見ていると、蝶がベンチの近くまでやってきた。蝶の羽は陽光に透かされ柔らかい輝きを放っている。
「おばあちゃん」と志保は小さく呼んでみた。
しばらくすると蝶は満足したかの様に志保から離れ、青い空へ溶け込んでいった。

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お題:どこまでも続く青い空
726文字

10/23/2024, 9:56:30 PM