誰も居ない教室の中を黒板を背にして見渡す。
何ら変わらない、いつも見ている景色。
机と椅子と荷物を入れているロッカーと掃除用具入れ
教室の壁には、掲示板
今度は、背にしていた黒板の方へ身体を向き直す。
何も書かれていない黒板…
下を見ると、黒板消しと数本の白いチョーク
俺は、徐ろに黒板に置かれている白いチョークを手にする。目線の高さまで持ち上げまじまじと、そのチョークを見つめる。おそらく備品の箱から出したばかりなのだろう。そのチョークは、まだ1回も使われていなく長さは長いままだ。
俺は、その新品のチョークを躊躇なく握りつぶした。
バキッと音を立て握りつぶした掌を広げると新品のチョークは粉々になり短くなった。
握りつぶした掌は白く粉だらけになったが俺は、冷めた瞳と無表情な顔をしたまま見つめていた。
そのまま、掌を下に向けチョークを床に落とす。チョークは床にぶつかりバラバラと音を立て散らばる。
その光景を鼻で笑って見つめてから黒板へと目線を変える。
「……さて、始めるか。」
また、黒板を背にし近くに置いてあった自分の黒いリュックサックを教壇の上に置きチャックを開ける。ジィーっと音を立て中から
❝例のもの❞を取り出す。それは、円形状のペンキ缶と刷毛、スプレー缶、ゴム手袋に工事用のマスク、キャップ全てを取り出す。ゴム手袋と工事用のマスク、キャップを装着をし、円形状の缶の蓋をこじ開けた。
蓋を開けると、ペンキ独特の匂いがする。
缶の中は、赤色のペンキの液体が並々と入っている。
俺は、刷毛を手にしドブッッッと勢いよく缶の中へ入れた。そのまま、缶の取手を左手に持ち
また黒板の方へと向き直す。
缶の中へ突っ込んだ刷毛を右手に持ち、ボタボタと赤色の液体が床に落ちていったが気にもせず、ワザと雑な字で、黒板へと書き込んだ。
《宣戦布告》
黒板の端から端へデカく書いていく。書き終わると
手に持っていた缶と刷毛を床にぶん投げた。ガバンッッッと机に打つかる音と缶が打つかる鈍い音、そして液体が缶の中からドボドボと音を立て床に血溜まりのように広がっていく。次に俺は黒色スプレー缶を持ち赤字の上から文字が強調されるように吹き付けた。
この教室の人間が皆見られるように…
この学校の教室が恐れるように…
マスク下の俺の顔は、先程の無表情から一転し満面の笑みを浮かべた。吹き付けが終わり黒板から2メートルぐらい下がり黒板全体を見渡す。
「…完璧だ。」
俺は、ゴム手袋とマスクと着ていたジャージ、履いていた靴下とキャップ、上履きを全て脱ぎ予め用意していたゴミ袋へ入れた。……念の為の証拠隠滅だ。
そして、再びリュックサックから予備のジャージと靴下
上履きを取り出し着だす。窓の外を見ると日が傾き始めていた。教室の時計の時刻は、17:15
部活をしている者は、もう終わり支度をしている時間帯
素知らぬ顔で、教室を出て少し遠回りをして生徒玄関へ向かえば良い。もし、仮に誰かに会ってもジャージを着ているから上手くごまかせるし怪しまれることもない。あと、顔を隠すため市販のマスクを付けているからただの風邪気味の生徒にしか見えない。
誰にも怪しまれない…
「フフッ…さぁ、帰るとしよう。」
赤札ならぬ、赤文字で宣戦布告。
この学校の生徒と教師らに、
俺ら、格下たちの人間が戦争をけしかける。
9/6/2025, 12:58:40 PM