瑪瑙

Open App

「これは良いことかなぁー?」
俺は問う。
「……。」
───ドォン
「おい答えろよ!!」
俺の足が怒りに任せて近くにあった机を蹴る。


数時間前のこと。
俺の後輩がミスをしたと報告してきた。
どういうミスか。
それは、俺の作った資料を消してしまったのだと。
今日プレゼンがある、その資料を。
俺の昇進がかかっていた。
俺はこの3カ月、このプレゼンにかけてきた。
それは皆知っていた。
それほどに本気だった。
だから、報告を受けた時、何も考えられなかった。
唖然とした。
後輩は何度も謝った。
許せるわけもなかったが、プレゼンに少しでも間に合うように、資料を作り直した。

プレゼンは大失敗。
「君は何なんだね。」
と言われる始末。
ここで事実を言ったところで、配慮なんかしてもらえるわけもない。
心の中に押し殺した感情。
苦しかった、悔しかった、泣きそうだった。
全てが終わり、自分のデスクに戻ってきた時、ふと、会話が耳に入ってきた。

「これであいつの昇進はなくなったな。」
「良かったやん笑 これでお前、あいつより上行けるんちゃうん?」
笑い声が聞こえる。
その笑い声は、謝ってきた後輩の声によく似ている。
「でも、なんで失敗したん?めっちゃ準備して完璧やったやん。」
「そんなん簡単やん。消したんやわ、資料。一応さ、ミスってことで謝っといたし、全然疑われてないけどな。」
笑い声。
最後の声。
後輩の声だ。
あぁ、そういうことか。
くっそ、もう、笑けてくるな。
情けないなぁ。


俺は後輩の元へ向かう。
やっていい事と、悪いことがあるだろう。
そんなに俺を抜かしたいなら、実力で抜かせよ。
その時の俺は泣いていたのか、笑っていたのか、覚えていない。


「おい!!聞いてんだろ!!」

「落ち着け!!お前はよく頑張ったよ!」
必死に俺を止める声。
そんなん関係ない。


「言えよ!!やった事がいいか悪いか!」

4/26/2024, 3:48:54 PM