しょめ。

Open App

【⠀No.6 さよならを言う前に 】


友達が息を引き取った。
まだ夏が抜けきっておらず蒸し暑い日。
持病で入院していた友達の容態が急変したらしく、
私の元に電話がかかってきた。
急いで駆けつけた頃にはもう遅くて、ひたすら泣いた。

「鈴ちゃん歌上手いんだねー!めっちゃ好き!」

河川敷の隅っこで静かに歌う私を見つけて声をかけてくれた、唯一の友達。
明るくて可愛くて面白くて優しくて、本当に完璧な子。
彼女は歌手になるという夢を、1番近くで応援してくれた。
たくさん好きと言われた。上手だと言われた。
その度に私は救われたし、元気を貰えた。

「鈴ちゃんならきっと歌手なれるよ!アルバムとか私が1番にゲットしちゃうんだから!」

ただの口約束だけど、私は嬉しかったんだよ。
視界が滲んで大きな雫がシーツの上に落ちた。
その時ふと、生前に彼女が言っていたことを思い出した。

「もし私が死んだら、80年後くらいに空で待ち合わせね。」

あの時は私、怒りながら「当たり前」なんて返したっけ。
もう居なくなってしまったから、いまさら取り消しなんてできっこないよね。

君は私の心に大きな穴を開けたけど、ちゃんと埋めてくれた。
歌手になりたいという夢に対する希望もくれた。
だから私も、きっとガッカリさせないから。

さよならを言う前に旅立った君は、
さよならを言う前にくれた言葉で、私たちを繋げたんだ。

8/20/2024, 1:16:26 PM