シオン

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 今日の勤めを終えて、自身の部屋に戻ってきて一息をついていたウィルは自身の部屋がノックされる音を耳にした。
 サルサはウィルの部屋を知らない。ということは、なんて来客を予想しながら扉を開ければ、アリアが立っていた。
「…………タイムスリップしました? もしかして」
「……それが年取って見えるって意味なら殴る。この光景がタイムスリップしたみたいに見えるって意味なら違うと否定してあげる」
「…………出会い頭にそんなこと言うわけないでしょう。後者ですよ」
「だよね〜。ってことで入れてよ。キミにだーいじな話があるんだ」
「……はぁ」
 煮え切らない、納得のいかない様子で曖昧な返事をしつつも、扉を大きく開いてアリアを部屋に招き入れる。椅子に腰掛けたアリアに対して、二つ椅子があるわけではないからとウィルはベットに腰掛けた。
「……どうしました?」
「んとね、色々あって」
 アリアは指を一本立てながら言った。
「一つ目。サルサくんの図書館の件についてケアとか説明とかはしましたか?」
「……一応。怒られなかったことに対して見捨てられたのではないか、と怯えていましたが、一応違うと伝えた上で説明もしました」
「おっけぃ。ただ、もーちょい早い方が良かったかも。図書館は気軽に入れる地獄への入口だからね。受付係がいない間に施錠がされてなかったという事実についてはデウス様から処分が下っているからもう起こらないとは思う」
 アリアは若干目を細めながら言った。指を一本増やして続ける。
「二つ目。教育係は順調? 実践の方は……プロムに頼んだんだっけ?」
「そうですね。貴女でも良かったんですけど、これからの季節は忙しいでしょう?」
「そーだね。そろそろ大仕事の時期だから忙しい。……一年は一月から始まるのに何故か『神託』とかは四月に要求されるのマジ意味不明すぎて」
 口を尖らせながらアリアはボヤき、ウィルはゆっくりと瞬きをした。指がさらに増える。
「三つ目。……最後なんだけど、ウィルはいつ、サルサに言うの?」
 アリアはゆっくりと一言一言を噛み締めるようにそう尋ね、ウィルは何拍か遅れて口を開いた。
「…………いつか」
「……まだ、むり?」
「………………言っても、なれますか。教育係であれますか」
「わかんない」
 アリアはそう呟いて外を見る。青い月の光が辺りを照らす様は幻想的に写った。
「……いつか、言いなよ。腹を割って心と心で分かり合えるように、言いなよ」
「…………いつか、なら」
 ウィルは小さく呟いた。

2/6/2025, 3:52:35 AM