谷折ジュゴン

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創作 「不条理」

「拾ってくれてありがとうございます」

背の高い青年は悲しみに染まった目を伏せ、手帳を受け取り胸に抱く。

「失礼ですが、中を見ませんでしたか?」

「すみません、少し読んでしまいました」

小さな声で答えると彼は大丈夫ですと弱々しく笑った。

「この世は不条理ですよね」

「へっ?」

「あぁ、いえ、これを読まれたついでに話してしまおうと思いまして、その、あいつについて」

彼は、ある理由で姿をくらませた友人を捜して、旅をしているのだと言う。

「そうだ!貴女は魔法つかいでしょう。魔法であいつの居場所を突き止めて欲しいのですお願いします」

「えぇっ、私にできるかなぁ」

私は、 「人捜し」の呪文を唱える。どこからか現れた青い蝶の群れが北へと飛んで行ってふわりと消え失せた。

「彼は北にいます。これくらいしか、わかりません、すみません」

自信の無い声で伝えると彼は首をふる。

「とんでもない!方角がわかっただけでも、進歩です。ありがとうございます」

「あの、私が言うのもあれですが、科学も信じてもらえる時代が来ると良いなぁ、なんて、ね」

曖昧に口にすると彼の瞳にわずかな光が灯った。

「本当にありがとうございます、貴女が拾ってくれてよかった」

柔らかい笑みに私はあたふたとその場を離れる。

「あ、お礼もらうの忘れてた」

すぐさま彼の背を追いかけ走った。
不条理な目に遭う彼らが少しでも浮かばれる日が来ることを、今は願うことしかできない。
だけど、私の魔法つかい修行はまだ始まったばかりだ。
(終)

3/18/2024, 11:27:30 AM