「好きだよ。」
身勝手な言葉だ。でも、言わずにはいられなかった。
「ごめんね。私、もうすぐ死ぬの。」
俺はこの瞬間、失恋の痛みを知った。ずっと好きだった彼女に告白しようとした矢先の事だった。俺は、泣き言を飲み込んだ。
「あと、どれくらいなの?」
「分からない。でも、いつ死んでも、おかしくないの。」
そっか、と小さく呟いた。頭の中では、彼女に掛ける言葉を探してる。でも、何も思いつかなかった。そんな俺に、背を向けて彼女は言った。
「だからさ、もうお別れ。」
彼女は、俺に目もくれずに、去っていった。
あれから二週間。俺は彼女の見舞いにも行けていない。病院の場所も、病室の番号も知っている。それなのに、臆病な俺は、彼女の死が怖くて何も出来ないでいる。自分で自分を嘲笑ってしまう。そんな自暴自棄でいると、一通のメールが届いた。俺は、その送り主の名前を見て、すぐに家を飛び出した。
俺は、送り主が居る部屋の扉を、勢い良く開けた。その音に驚いて、目を見開く彼女が居た。
「来たんだね。」
「うん。」
俺達の間に沈黙が流れる。その間に俺は、呼吸を整えた。
「〝最後に君の声が聞きたかった〟って来たから。」
「自分から別れを告げたくせに、って思ったでしょ。」
「思わないよ。俺も君の声が聞きたかったから。」
彼女は、大粒の涙を流した。そして、小さな子供のように叫んだ。
「死にたぐ、ないよっ!まだ、君と、生きでいたいっ!」
そんな彼女を俺は抱きしめた。服に彼女の涙が滲みてきた。でも、不快感はなく、只温かかった。
「好きだよ。ずっと前から、そしてこれからも。」
溢れていた思いは、心に留めて置くには重すぎた。彼女は俺の言葉を聞いて、少し頬を紅く染めた。
「遅いんだよ。バカ。」
小さな声が聞こえた気がした。
俺は毎日病院に通った。彼女が死ぬ瞬間まで。そして、沢山話した。死んだあとに寂しくならないように。忘れてしまはないように。
「来世で、探し出してみせるよ。」
彼女は、最後の力を振り絞るように笑った。そして、彼女は俺の腕の中で、静かに息を引き取った。
腕の中の彼女は、柔らかい雨のように俺を抱きしめてくれた。俺はそれに応えるように抱き返した。次第に彼女が冷たくなっていく。それはまるで、秋の雨を彷彿させた。
11/6/2024, 2:26:29 PM