『雨上がり』
雨が好きだと言った君は、雨に殺された。
透明な傘をクルクルと回しながら前を歩く君は、踊るように歩いて水溜まりをパシャリと踏んだ。
下校時間の夕暮れ時。
静かに降る雨に少し白っぽい橙の夕焼けが反射する。
不意に君は振り向いて僕に言う。
「世界最後の日は雨がいい」
そう言ってまた傘をくるりと回す。
僕はそんな最後の日は御免だと思った。
雨は嫌いだ。
服は濡れるしジメジメしてる。生まれつきのくせっ毛は本領発揮していつもの倍はくるくるになる。
さらさらとした黒髪を揺らしながら、彼女はふふっと笑う。羨ましい限りだ。
その日の夜。君は死んだ。
本当に世界最後の日になってしまった。
それを知ったのは翌日で、よく晴れた朝だった。
昨日の雨が嘘のように、太陽がうざったいほど輝いていた。
彼女はきっと雨の神様に魅入られてしまったのだろう。
目立った外傷はなく、眠りについたまま目を覚まさなかったらしい。
どこかのプリンセスと同じでキスをしたら目が覚めるんじゃないか、なんて思ったが僕にそんなに資格はない。
だからきっと彼女は連れていかれしまったんだと僕は思う。
雨の神様に見初められて、雨上がりとともに君も連れてかれたんだ。
雨が好きだと言った君は、雨に殺された。
だから僕は、雨が嫌いだ。
2025.06.01
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6/1/2025, 10:41:09 AM