テリー

Open App

雷鳴が轟く。
降り止まぬ雨が辺りに不快な音をばら撒き続けている。ひやりとする空気が鼻先を掠め、私はその冷たさに身震いした。
この時期の長雨は厄介である。闇は辺り一面を覆い、雨音は静寂を邪魔してくる。
夜目の効く私でさえも、目を凝らさねば遠くを見止めることが難しくなる。
なればこそ、常日頃から周囲に気を張り—。

『うぉわっ!?びっくりした……ゆかりさん、いつからそこいたの』
明滅が一つあった後、辺りがパッと明るくなる。その先には我が同居人—リュウノスケがいた。
かつて外を闊歩していた私を、あろうことか抱え上げ攫っていった極悪人である。
飯を与え、寝床を用意する献身っぷりに致し方無く同居を許しているが、飯を確保するためかしょっちゅう外へと繰り出している。その癖私の外出は許さない狭心さ。
目を細める私に情け無い声をかける。私より図体がデカい癖していつも私に驚いている気の小さい奴だ。
『どしたん?ゆっちゃん何か見つけたん?』
窓辺で外を確認していた私にリュウノスケが何か問いかける。
この『どしたん』という問いかけを奴はいつもする。大方『何か不具合があったか』とか『何をしている』という意味だろう。
私は答えた。
「見よ。酷い雨だ。外には出るなよ」
『雨だねぇ。朝には止むといいねぇ』
私の頭を撫でながらリュウノスケが何かにゃむにゃむと答えた。暢気な声色なのを見るに、恐らく私の忠告は理解していない。なんて知能の低い生き物だ。
「リュウ、暗がりで隙を見せるな。一瞬で狩られるぞ」
『ん?何?餌ならあと30分で出るよ』
エサ、と言った。私が食事を催促していると思っているのか。なんてポンコツなんだ。
嗚呼、駄目だこの生き物は。良くここまで生きてこれたものだ。やはり私が見張ってやらねば。
—故に私は目を光らせる。この暗がりの中、この低脳なデカブツを守るために。

≪暗がりの中で≫

10/29/2024, 1:21:14 AM