運命なんてほんの一瞬で変わってしまう
春咲きの椿が落ちたとき、両手で掬って私に手向けた人がいた。正確には人ではなかったけれど、落ちた花の色に呑まれてしまいそうなほど淡く儚げな美人だった。
言葉は通じないから気楽だった。旅行誌の写真を眺めては指をさして知っている見たことがあると主張するのを頷いて返す。歌をうたって聴かせれば目を細めて笑い、お返しにと知らない歌を聴かせてくれる。
若葉の木漏れ日に揺れ、夏の暑さに項垂れた。
落葉を流し、秋色に染まりながら歌う。
薄氷の向こうを見つめ、冬の隔たりを砕いた。
次の春、私はもうここにはいない。
好きでもない人と結婚した。それなりに楽しく過ごしたけれど、この人とじゃなくてもきっと楽しめた。
同じ時を過ごしても、身体を重ねても、小さな命を宿しても、同じ気持ちを重ねることができなかった。それでも情はあるから大切にはできていたの。
よく晴れた春の日。懐かしい場所に花見に行った。
屋台が建ち並び、祭囃子に合わせて踊り子が舞う。賑やかで美しい景色に胸が少し苦しくなった。
手を繋いで歩いていたのに、パッといきなり振り切って走り出した小さな子を追いかける。あっという間に人波にのまれて見失ってしまって、どうしたものかと思案しながら桟橋を渡ったときだった。人々が見つめる先に探していた小さな子がもがきながら沈んでいくのがみえた。
静止を振り切って飛び込むと、そこにはかつての美しい人がいた。指先一つで流れを操り小さな子は岸に辿り着こうとしていた。
不意に振り返った美しい人は、大きな目をさらに大きく開いた後に花が綻ぶような笑顔で私に抱きついた。知らない言葉を囁きながら、そんなに深くはなかったはずの水底に光が届かなくなるまで沈んでいった。
私はたまらなく幸せで、息苦しさがいつの間にか消え去っていたことにも気づかずにきつく抱きしめ返す。
あの日、この美しい人にあったときから誰よりも、ずっと大好きな人。私のたった一人の理解者にまた会えた。
私の本当の運命はきっと、この人なの、かも
知れないね
【題:誰よりも、ずっと】
4/9/2026, 3:38:53 PM