題名 キンモクセイ
フワッと香った。
その香りに振り向く。
柔らかい優しい香り。
小さなオレンジの花のその香りに
私は目をつむる。
あなたの事を思い出す。
というかあなたの事しか思い出せない。
優しさを固めたような
どんな時も傍にいて励ましてくれるあなたが
私の中にいつもいるから。
「沙耶!」
私は微笑んで振り返る。
優しいオーラをまとうあなた。
どこかキンモクセイと似たフワッとした
遠い異国を思わせるような感覚に、何故なんだろうと思う。
こんなに懐かしい気もするのに。
「待ってたよ」
デートの待ち合わせ場所のベンチから立ち上がって私はあなたに言う。
「ごめん、待たせて、電車が少し遅れちゃってて」
「だいじょーぶ、ねぇ、見て?キンモクセイ、あなたみたいだよね」
「いつもそう言ってくれるけど、そうかなー?」
あなたの懐疑的な顔を見てまたフフッと笑みがこぼれる。
そんな瞬間すら幸せなんだ。
「そーなのっ、私にとってあなたはいつでもフワッとして優しいキンモクセイなんだよ」
「君がそう言うなら」
あなたが照れたように言うから、私はあなたの手を衝動的に握る。
離したくなくて。
「?!」
突然手を握られてびっくりした表情のあなた。
「·····繋いでもいい?」
今更のように聞く私。
いいって答えが返ってくるのは分かってるのに。
「もちろんいいよ」
あなたのフワッとした笑み。
·····弱いなぁ、私はあなたには。
「行こっか?」
私は幸せを噛み締めながらあなたと歩き出す。
寒い北風が吹いているけど、私とあなたの間にある空気はいつでもオレンジ色。
いつでもあなたは私のキンモクセイだ。
いつでもあなたは私にとっての癒しなんだよ。
どうかずっと傍で優しさを感じさせていてね。
11/5/2025, 4:58:05 AM