ストック1

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「この手紙は秘密の手紙です
絶対に読まないでください」

弟の字で封筒にそう書かれた手紙がリビングに置いてあった
なんとも子供じみたいたずらだな
もういい歳なのになにやってんだか
どうせ手紙には「バカが見る」的な、それ系の内容が書いてあるんでしょ
くっだらね
こんなもの無視するに決まってんのになぁ
弟ももうちょっと凝った罠を仕掛ければいいのに
もしかしたら凝った罠は思いつかなかったのかもしれないけど
もしそうだとして、こんなレベルの低い妥協をするくらいなら、中止したほうがいいんじゃないの?
私がこんなバカバカしい罠に乗ると思ってるのがまたムカつくな
舐めんなっつの
まったく……
…………
……いやいやいや、流石に見ないよ?
全然気になんてならないし
いやでもせっかくね、弟が仕掛けた罠だし?
かかってやるのも姉の務め的な?
断じて好奇心だとか、中身が気になるとか、そんなんじゃないから
本当に
じゃあちょっと、弟のために罠にはまりますか
あくまで、弟のために、ね

「ヨンダナ
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ……」

私は固まった
恐ろしいフォントの赤文字で恐ろしいことが書いてある
ちょっと待って、いくらなんでもこれは予想外すぎだよ
ちなみに私はホラーが苦手だ
超苦手だ
そして、こんなもん見せられたら私の心は恐怖一色に染まる
まぁでも大丈夫
弟のイタズラだから
単なるイタズラ
あとで弟を叱ってやろう
姉を舐めるなと
とにかく、一旦自分の部屋へ戻ろう
そう思って振り向くと……
真っ黒い目と真っ黒い口から真っ黒い液体を垂らした弟がそこに立っていて……

「びゃああああ!!!」

私は絶叫しながらその場で尻餅をつく

「いやぁ、ここまで効果抜群とは思わなかったよ」

弟はガタガタ震える私を前に、笑いながら顔に貼り付けた紙製の黒い目と口と液体を剥がした
私は一瞬で弟の恐るべき罠の内容を悟る

「それにしてもどんだけホラーが苦手なんぶへっ!」

涙で目の前がぐしゃぐしゃになりながらも、私は弟の左頬にパンチを食らわせた

「このっ、バカアホカスゴミクズ!!」

混乱と怒りの中で思いつく限りの罵詈雑言を吐き、私は自分の部屋へ向かった
しばらく口を利いてやるもんか
これは明らかに一線を越えている

……結局あとで弟が心底申し訳なさそうに謝罪をし、私の好きなケーキを持ってきたので、もう許してやることにした

12/4/2025, 11:43:28 AM