烏羽美空朗

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本の重さでガタガタと揺れ動くカゴに揺らされ、自転車のライトが遠くの針葉樹林をぼやりと照らす。
寒い、暗い、まずい。冷たい風に肌を刺されながら、思ったより早い時間に太陽が降りてしまった世界を駆け抜ける。

街の中心にある大きなデパートに飾られていた、これまた巨大なピンク色のクリスマスツリーに見とれていたら、いつの間にやら外が暗くなっていたのだ。

行きつけの書店、上り下りのエスカレーターの先に、それはあった。「冬は終わりの季節」「真っ白で味気ないわ」と読んでいた小説の中の少女は言っていたが、ふと顔をあげてみればついこの前までかぼちゃおばけの王国だったその空間が、今では気の早いサンタと雪の結晶のホログラムに占拠され、味気ないとは真逆の、ギラギラな世界が広がっていた。

美しい、とは少し違うが綺麗ではあった。

冬のはじまり

11/29/2022, 1:46:31 PM