かたいなか

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最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
その中には、熱と冷気をあやつる不思議なハムスターが店主を押し付けられた、喫茶店がありました。

カラカラからから、ネズミの回し車のような、専用のコーヒー豆焙煎器を回しまして、
1杯ずつ、丁寧に焙煎して、それでもって絶品コーヒーを提供するのが好評な理由。
ハムスターはハムスターのくせに、ビジネスネームを「ムクドリ」といいました。

「ちくしょう、ちくしょう。あの魔女め!」
とっとこムクドリがコーヒーを提供することになったのは、深いワケがありました。
「絶対、借金の返済が終わったら、あいつのローブをかじり倒してやる!」
というのもムクドリ、魔女のおばあさんが店主をしている喫茶店で、家電のコードやらアンティーク家具やらを、かじかじ、削ってしまったのです!
「くおぉぁぁぁぁああ!おりゃー!」

魔女はムクドリに弁償を指示。
管理局内に新しい喫茶店を開設して、そこの店長を押し付けたのでした。

「ムクドリ!いつものを2杯たのむ」
さて、今日も今日とて、ムクドリの喫茶店にお客さん、管理局法務部の人間が、やってきました。
「1杯はミルク多めで、クリスタルシュガーを2本付けてやってくれ」
今日の常連さんは、新しいお客さんをひとり、連れてきた模様。管理局の局員ではなさそうです。
「ああ、そうだ、それから何か軽食も」
常連の方の法務部局員は、ビジネスネームを「ツバメ」といいました。

「軽食は!ビュッフェスタイルにしたから!
代金入れて勝手に持ってって!!」
カラカラカラ、ガラガラガラ。
とっとこムック、焙煎器を全力で回しながら、ツバメにチューチュー、ぎーぎー!叫びました。

「ビュッフェ?」
「軽食!スイーツ!おつまみ!!
勝手に取ってって!!」
「はぁ。それじゃ、お構いなく」

「食った分はちゃんと払ってよ!!」
「……前払式じゃないのか」

ガラガラガラ、がらがらがら!
とっとこムクドリは常連のツバメとお連れ様を放っといて、豆の焙煎に集中します。
「それで、気は落ち着いたか?」
「もう諦めました。受け入れることにしました」
「それは結構」
聞こえてくる声を聞くに、どうやらツバメ、事情聴取やら情報収集やらの場所として、この喫茶店を選んだようです。
「諦めた」って、何があったのでしょう?

「あたし知ってるよぉー」
へへへ、聞きたいー?
焙煎器の近くでムクドリのひとり運動会を観察していた収蔵部の局員「ドワーフホト」が、
アイスカフェモカをちゅーちゅー、ストローで堪能しながら言いました。
「あのねー、 ふふ、 まだナイショ〜。
それよりムクドリくん、カフェモカおかわり、ツバメさんの後で良いから、よろしくねぇ〜」

「なんだよ、もったいぶらないで、教えてよ!」
「ムクドリくん、ペース落ちてるぅ」
「ホトさんが大量にモカ頼むからでしょ?!」
「早く借金返し終わると良いねぇ〜」
「くぅぉぁああああああ!!」

がらがらがら、ガラガラガラ!
自分を喫茶店に閉じ込めた魔女への恨み、大量に商品を注文してくれるドワーフホトへの複雑な感想、
色々諸々をチカラに変えて、とっとこムクドリ、ネズミ車式のコーヒー焙煎器を回します、回します。

ムクドリから離れた席では、何かを「諦めた」お連れ様が、オシャレな砂糖の結晶に感動しています。
「きれい……」
「それは良かった」

「クリスタルシュガー?シュガークリスタル?」
「ロックキャンディーとも呼ばれているらしいですよ。砂糖の結晶を棒に付けたものです。
そのままコーヒーの中に入れt」
「もったいなくて使えない、飲めない……」
「いやコーヒーは飲んでください」

「コーヒー、ツー様の香りがする……」
「あなたの天然っぷりというか、ゴーイングマイウェイっぷりを見てると、ウチの部長を思い出すな」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「特に褒めてはいませんよ」

はいはい、はいはい。楽しそうなことで。
ムクドリはツバメを、意図的に知らんぷり。
ただ全力で、ただ無心になって、ガラガラガラ。
ネズミ車式のコーヒー豆焙煎器を回しました。
ドワーフホトはそれを見て、ちょっと笑って、
ツバメが頼んだものと同じクリスタルシュガーのスティックを貰って、くるくるくる。
甘さが抑えられたモカを、かき混ぜておったとさ。

7/3/2025, 3:00:04 AM