計家七海

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 面倒なのであんまり人には言わないが、オレの爺さんは政治家だ。
「生きる意味について考えたことがあるか?」
 初めて会ったとき、そんなことを言った。さすが政治家、校長先生が朝礼で言うようなことをグレードアップして言うものだ、などと思った覚えがある。
 自分の返答はと言えば、よく覚えていない。単純に「ないよ」、返して「爺さんにはあるの?」、ちょっとひねくれて「そんなこと考えてどうするんだ?」辺りが有力候補か。
 とにかくこちらが否定的であることは伝わったのだろう、続く言葉も覚えている。
「それは道が決まっているときには重いものだが、道を決めるときには役に立つものだ。折に触れて考えておけ」
 こちらが返事をする前に、爺さんは付け加えた。機会を見つけて、という意味だ。『折に触れて』が小学生には難しいと思ったのかもしれない。いや難しいのはそこじゃないだろ、と小学生のオレはツッコミを入れた。そのツッコミが脳内だったか口に出したかは、やっぱり覚えていないわけだが。


 高校で進路調査票を配られて、そんなことを思い出す。年月が経って、爺さんの言うことが少しだけわかるようになった。
 初対面の小学生に対してあんな堅苦しい命題を言い出した爺さんは、あれはあれで緊張していたのかもしれない。そういうことが顔や態度に出ないんだよな、あの爺さん。

4/28/2023, 9:25:15 AM