お否さま

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【どうすればいいの?】

眉を8の字に寄せ、彼女は重々しく口を開く。

「どうすればいいの、これ」

目の前には大量のケーキ。
ショートケーキにモンブラン、チョコにフルーツ。
種類は多様。もちろんふたりで食べ切れる量なんかじゃない。ほんとにどうしてこんなことに……。


少し前、僕と彼女は商店街を歩いていた。この場合の彼女は女性を差す二人称でもあり、恋人でもある。そんな人と商店街を歩いているのは、特に理由は無い。学校帰りに一緒にいる時間を増やしたくて遠回りしただけだ。
辺りは、あちらもこちらも活気があった。色んなところにクリスマスツリーやら星やら、赤鼻連れた赤の不審者を飾ったりでばたばた生き生きと働いている。
そんな人たちを見るとこちらもワクワクとした気持ちが湧き上がってくる。
彼女も同じなのか、気持ち足取りが軽い。

「ね、クリスマス前に出歩くのも楽しいね?」

こちらに顔を向けて、可愛らしくにひっと笑う彼女。
思わず、ぼうっとする。大きなマフラーに埋もれた姿と相まって、ドラマのワンシーンのようだ。

「あれ、聞いてる?」
「お、おう、聞いてるよ」

ちょっとばかしどもった僕に胡乱気な視線が突き刺さる。そんな彼女の追求から逃れるように目を逸らす。
すると、そこに都合よく気がそらせそうな代物を見つける。

「あ、くじ引きやってるよ! 行ってみようぜ!」
「ちょっとぉ、誤魔化さないでよね」
「行かないの?」
「もち、行くけど!」

よしよし、こういう運試し的なものに釣られる性格で良かった。

向かった先には昔懐かしガラポンと玉が出てくるタイプのくじ引き。商店街回ってる間にくじびきの券も1枚だけ取得済みだ。物語都合で抜かりは無い。

「お、そこのカップルさん引いてくかい」
「ええ、1回だけ!」

ぴっと元気よく指を立てる彼女に合わせて、おっちゃんに券を渡す。

「いよぉし、確かに受けとった!
今回の目玉は温泉ペア旅行券だ!当たるといいな!」

おっちゃんの威勢のいい内容に彼女はふぅーーと息を整えている。ふと、目を見ると虎のようにギラギラと輝いていた。気合いは十分。

「がんばれ」
「うん、イチャイチャ温泉旅行獲得するんだ!」

そういうと彼女はゆっくりと取っ手に手をかけた。
一拍。

がらん!

勢いよく回されたガラポンから、鉄砲玉のように飛び出す。白では無い、色つき、つまり賞は取った。
ただ問題は。

「お、旅行券じゃないけど中々いいもんじゃねえか」

ガランガランとおっちゃんのベルに反応して後ろからおばちゃんが大きな箱を持ってくる。

「さァ、2等賞!ケーキ30種詰め合わせだ!持ってきな!」

その時の彼女の顔と言ったらもう、ケーキを30種類目の前に出されて食えと言われた時のような顔をしていた。


そうして、今に至る。
とりあえず自宅まで戻ってきた。
戻ってきたのはいいんだが。

「とりあえずこれ二人で食べきれないよね……?」

彼女の言葉に静かに首肯する。
ケーキだから日持ちもしないし、お互い好き嫌いもある。何より、糖質とカロリーの暴力だろう。

だが、処理する手段がない訳では無い。
要は2人でダメならもっと数がいればいいわけで。
というわけで。

「援軍を呼ぶね?」
「それしかないからな……」


唐突なケーキパーティに歓喜したやつらがいたのだけここに記しておこう。楽しかったことも。


友人たちが帰ったあと。
冷蔵庫には2つ、お互いの1番好きなケーキが残されていた。けれどスプーンはみんな使ってしまって1つきり。

「ね」

彼女が、振り返りにひっと笑う。

「どうすればいいの?」
「ずるいやつ」

11/21/2024, 7:26:56 PM