「半袖」
……暑い。あまりの暑さに目が覚めた。時計は6時くらいを示している。……まだ眠いが二度寝するには時間が長いうえ、この暑さだ。
仕方ない、起きるか。立ちあがろうとすると、ふと手に柔らかいものが触れた。何かと思って手元を見遣るとミントグリーンのふわふわしたものがある。
びっ……っくりした!なんであんたがここで寝てるんだよ?!
「ん……今日は早いね〜、おはよう!」
「というか、そんなに驚かなくたっていいじゃないか!!!ちょっとキミのベッドを拝借したくなっただけだよ!!!」
「そういえば、今日は何か用事があるのかい?!!」
いや、あまりにも暑くて起きてしまっただけで用事はない。
……もしかしてあんたがベッドにいたから暑かったのか?
まあいい、とりあえず着替えて朝食でも食べよう。
「う〜む……キミに満足してもらえるような朝ごはんを作りたいものだが……。」
暑くても平気なように、半袖のTシャツをタンスから引っ張り出して着る。何ヶ月か前までは半袖の服なんて寒くて着ていられないと思っていたが、今なら随分と快適だ。
「おや、ちょうどいいタイミングで来たね……おや?!!」
「それ、半袖!!!半袖じゃないか!!!ホンモノは初めて見たよ!!!」
……こんなものを見て喜ぶのか。
この星の外から来た自称マッドサイエンティストの感受性は未だによくわからない。
「いーなー!!!ボクも半袖の服を着たいものだよ!!!」
「さて!!!今日の朝ごはんは夏野菜をたっぷり使ったサンドイッチだよ!!!夏野菜には火照った体を冷やす効果があるのさ!!!今のキミにぴったりだね!!!」
いただきます。……うん、美味い。
感受性はよくわからないのに味覚は自分に相当合っている。
一体どういうことなのだろうか。不思議でたまらない。
「驚くことなかれ……ボクはキミの味覚を熟知し、それに最適化した食べ物をお出ししているのだよ!なるほど、それはそれは美味なものばかりなわけだ!!!」
なるほど……ちょっと怖……。
「ねー、せっかく早起きしたんだからさ!!!ボクが着られる半袖の服を買いに行こうよ!!!キミがいなけりゃボクがこの星で何にもできないのは知っての通りだろう?!!」
頼むよー!!!なんて言いながらあんたは頭を下げる。
やれやれ、仕方ない。半袖を買いに行くか。
「やったー!!!」
とはいえ、服屋が開くまでにまだしばらく時間がある。
それまでの間、どういう服が欲しいのか聞いておこうか。
「そうだねー……ボクは桜の柄のTシャツが欲しいなぁー!」
日本かぶれの観光客みたいなチョイスだな。
あんまり売ってないと思うぞ。
「む〜……難しいね!!ねー、良い感性をお持ちのキミよ!!!」
「ボクに似合いそうな服を選んでくれたまえ!!!」
実際に見てみないとどれが似合うかなんてわからない。
「選ぶ楽しみがいっぱいというわけだね!!!」
「店に行くまでのお楽しみにしておくよ!!!」
……そう言われても、服のことは正直何にもわからない。流行りとか、パーソナルカラーとか、何にも把握してない。
でも、あんたは可愛い見た目だからなんでも似合うんだろうな。
だから、服選びはちょっと楽しみだよ。
……なんてことを考えながら、朝日が高く昇るのを待った。
5/29/2024, 10:04:46 AM