花束
鼻歌をこぼしながら手際よく花を束ねる。
それが彼の仕事で、才能だった。
ウェディングブーケの依頼が後を経たない。
彼の作るものにはそれだけ特別な何かがあると花嫁たちは魅了されたかのように信じて疑わなかった。
白、白、緑、白……。
「さて見習いちゃん、この花は?」
「白バラです」
「品種は知ってる?」
「はい、先生はよく『ブルゴーニュ』をお使いになりますよね。ふくよかな丸みのあるフォルムが女性的で可愛らしいと思います」
「感想もありがとう、では次は?」
実戦に勝る経験などない、矢継ぎ早な質問をしながらも確実にカタチになっていくブーケに見惚れてしまう。今一度「次は?」と問われて
「カスミソウです」
「またの名を?」
「……」
「花言葉は?」
「エバーラスティングラブ、永遠の愛です」
「そうだね」
そう言って彼は小さな花の一つを摘んだ。
手品師が手の内をあえて晒しているような動きだった。
不思議に思った。
「なぜ……」
声に出てしまった。
花たちから目を離すことなく、にこやかな顔のまま彼は答えた。
「つまらないからね」
私はそれ以上彼に問わなかったし、彼も鼻歌を上機嫌に歌い出す。
出来上がったブーケは配達まで行う。
花の扱いを知らない配送員には預けないのが彼の信条なので、必ず弟子たちの仕事になる。
クライアントの喜びの声を受け自分の将来の仕事へ憧れを持たせるのが、本来の狙いなのかもしれない。
新婦はこれで今日が完璧な1日になったと小さく飛び跳ねて、ヘアメイクに冷や汗をかかせた。
私は口ごもる。
そして、懇願する。
「どうか、末長くお幸せに」
意図的に残されたバラの棘と
摘まれたカスミソウに
ささやかな抵抗の祝辞を残して
私はその場をあとにした。
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花束と聞いて
徒花(あだばな)という音が思い当たりました。
意味を知らなかったので、調べたところ……
・咲いても実をなさない花
・無駄な花
ぐえぇぇ、と思いました。
美しい音と悲しい意味に面食らってしまったのです。
きっと彼(師匠)は花が好きで、愛しているからこそ、装飾品の一部とされることに長年の恨みみたいなものを持ってしまったんだと思います。
人様だけが完璧な幸せの1日のために花に過剰な意味を持たせて、花の命を奪うことに静かな怒りと歪んだ背徳感を持って仕事としているんだと思います。
特定の花嫁をターゲットにしようかと思っていたけど、多分これは常習的にランダムにやってるなぁ。と最終的に思います。
「カスミソウを摘む」のはわかりやすかったかと思いますが、「バラの棘を残す」のは正直思いつきでした。
「めでたい席では棘は縁起悪いか?取るよな?」と思い至り調べてニヤついてしまった私です。実際はブーケとして握るところ以外は取らない?ようなのですが、白いドレスに赤い血が、なんてあってはいけないことなので、師匠の性質の悪さが剥き出しです。
胸糞わるい!
2/9/2026, 11:14:24 PM