イオリ

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 実家は田舎だ。山に住んでいる。子供の頃、レジャーや大きな買い物の時は、車で街まで行っていた。

 今は新しくバイパス道路ができたおかげで、街までだいぶ早く行けるようになったが、子供の頃はほぼ決まった道を行くしかなかった。

 その古い道路が都市部に入ろうかという辺りに、橋がある。そしてそれを渡ったところに精肉工場があるのだが、ここがちょっとした関門だった。

 匂いだ。橋を渡り始めてすぐ、猛烈な生臭い匂いが漂ってきていた。血と肉の匂い、というのだろうか、通り過ぎるまで息を止めようと思うほどの生々しい匂い。匂いだけでも子供の僕には苦悶だったのだが、それに輪をかけて、視覚からも責められた。

 橋には、5メートルほどの間隔でアーチ状の街灯が並んでいたのだが、そこにカラスの群れが止まっていたのだ。匂いにつられて来たのだろう、と両親が話すのを聞いて、カラスは怖い鳥だ、と子どもの僕は思い込んだ。

 匂いとカラスの恐怖に耐え、街での楽しい時間を過ごす。食事してカラオケをして買い物をして。

 あ、でも帰りも通るのだ、とふと思い出しては憂鬱になる。そんな子ども時代の思い出。

 

6/11/2024, 10:38:42 PM