【巡り会えたら】
バーカウンターの隅っこ。
2人で並んでバーボンを傾ける。
仕事終わりに「メシでも行くかぁ」って君が言うから、どっかの居酒屋にでも行くのかと思っていた。
そうしたら、ここだった。
静かなバー。
カウンター席だけの小さな店で、口髭の似合うマスターが寡黙にグラスを磨いている。
普段口数の多い君が何にも言わないから、二人の間に会話はなかった。
でも、君は何か言いたいんだろうと、クリスタルのグラスの中で氷が溶け、琥珀色のバーボンと混じり合う様子を黙って見つめていた。
「巡り会えて良かった」
ポツンと君が言うけれど、意味がわからないから曖昧に頷くだけ。
「生まれ変わっても、巡り会えたらお前に恋するよ」
だから、と君はオークのカウンターに何か小さな物を置いた。
ダウンライトに光る銀色の輪っか。
「だから、これ受け取って」
「……指輪みたいに見えるんだけど、これ」
「逆に指輪以外、何に見えんの」
君は小さく笑う。
シンプルな銀色の輪っかを君はつまみ上げ、左手の薬指にはめてくれた。
ぴったりと収まった輪っかは、こうして見ると確かに指輪だった。
やっと巡り会えた。
10/3/2023, 6:21:31 PM