楠征樹

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《神様へ》#26 2026/04/14

 困った時の神頼み、とは良く言うけれど。
 神様って、ちゃんと聞き届けてくれるのかな?季節やらなんやらのたびに、古今東西のありとあらゆる神様や仏様をダシにしてるわけだから、さすがに、ねえ…と思ったりはした。
 とはいえ、だ。自力で何とか出来ない以上、藁にもすがるつもりで…あ、また失礼なことを。
 夕暮れ時、地元にある神社で、俺は殊勝な顔つきで賽銭箱…の奥にいらっしゃるであろう神様にお祈りしていた。
「今年こそ、彼女が出来ますように」
 来年、努力が実っていれば、晴れて大学生になっている筈の俺は、生まれてこの方、恋愛沙汰に全く縁がなかった。
 高校デビューとやらにも失敗し、大学生になれたからといって、あまり期待は出来ないだろう。
 であるならば、大学などという、弱肉強食の場(個人のイメージです)で無惨な姿を晒す前になんとか…と思うのは自然ではなかろうか。
「新学期早々、呆れるわね。今は、合格祈願一択でしょうに」
 聞き慣れた声に後ろを振り向くと、なんちゃってじゃない巫女装束に身を包んだ女の子が立っていた。
 神代燿、この神社の宮司の娘で、いわゆる幼なじみだ。そして、初恋の相手であり、小学生の頃にこっぴどく振られている。にもかかわらず、小中高と一緒だったという、勘弁して欲しいくらいの腐れ縁だ。
「関係ないだろ、ヒカルには」
「あら?神さまに向かって、それは冷たいんじゃない?」
 頭脳明晰、運動神経抜群な燿は、当然ながらクラスの人気者でイベント事には何かと引っ張りだこな存在で、名字や実家の職と相まって、"神さま"とごく自然に呼ばれていた。
「別に…お前にお願いしてる訳じゃないし…」
 自然と、目を逸らした。"ボーイッシュな美少女"という形容詞がぴったりな燿は、今の俺には眩し過ぎて。
「あら、つれないなあ」
 ヒカルはこちらの気持ちなんて意に介さず、俺の顔を覗きこんでくる。
「私のこと、下の名前で呼んでくる男子は、晃斗だけなのにな」
 いつもの人を惹きつける笑顔。だけど、そこに、少し寂しそうな何かがあったのは気のせいか。
「放っとけよ、どうせ俺のことなんて…」
 振ったんだろ、そう続けようとしたら、燿に遮られた。
「あのさ、覚えてないでしょ」
「?」
「あの時、お嫁さんになってくれ。なんて言ったでしょ」
 言った、ような気がする…かなりテンパってた筈だから、定かではないけど。
「そんなのさ…怖くなる時だって、あるじゃん」
 そう、なのかな……
「それにさ…」
 ヒカルが、珍しく、恥ずかしげに俯いた。
「あの頃の私は、恋愛することに憧れてて…ただ、好きな男子と、両思いになりたかっただけでさ」
 そんなものか…。まあ、俺は本当にただのガキだったし、その辺りの細かい機微ってやつが解るはずもなかった。
「ねえ、晃斗はさ、あれから誰にも告ってないんでしょ」
 それは、事実だった。気になる女の子が現れたとしても、そこまでには至らなかった。いざとなると、脳の片隅で、誰かさんの顔がチラついて、邪魔するから。
「だから、何だよ」
「私もさ、フリーだよ」
 知ってる。片っ端から振りまくって、うちの高校の七不思議の一つに数えられてるくらいだ。
「良い機会だからさ、もう一度、告ってみない?」
「は?」
 我ながら間抜けな声をあげつつも、夕陽が彩る耀の顔に見惚れてしまった。
 鼓動が高まる。
 幾ら鈍い俺でも、そのひと言が意味していることは、解ったつもりだ。
「からかってるとかじゃ、ないよな」
 急に、喉が渇いているように感じた。
「さあ?試してみれば?」
 余裕ぶってるようだけど。
「震えてんじゃん」
「うっさい」
 見てろよ、神様。
 背筋を意識して伸ばした。
 あんたんとこの親戚みたいなやつに、今から、改めてお願いするから。
 ちゃんと、聞いておいてくれよ、頼むから。

「燿、俺は、ずっとお前のことが……」

 想いよ、届け!

4/15/2026, 7:33:54 AM