最近は暑くて暑くて参ってしまう。少し歩いているだけでも汗をかいて、顎先くら滴り落ちた水滴が地面にシミを作っては数秒と立たずに元の色に戻っていく。汗で半分服の色が変わっているのは日常茶飯事。雨の少ない昨今は日傘をさす日の方がきっと多い。
今日も例外なく、じとっとした重い空気に嫌な暑さがジリジリと身を焼くような日だった。空を見上げてみたところで太陽が眩しくて織姫と彦星がどこにいるのかなんてわかりっこないし、飾られた短冊も暑さに萎れた笹に吊るされていては届きようもなく思えてちょっと滑稽。
もうカッコウが鳴って幾分かした夕方をいまだ沈まない太陽が照りつける中、体を引きずるようにして帰り道を歩く。バサバサと音がして、下を向いていた顔を上げたら何羽か連なって鳥が飛んでいた。
この鳥たちは、天の川に橋をかけにいくんだろうか?なんて思ったが、鳥たちは遥か先に飛んでいくでもなく、いつもいるような電線の上や屋上に止まるでもなく、建物の日陰にバサバサと止まった。鳥も暑くて飛べないのである。あーあ、きっと今年の橋はかからない。織姫と彦星はこの年出会うことはなく、来年の涼しさを望むばかりなのだ。
いや、違うかもしれない。
こうも暑いこの頃である。水が枯れてもおかしくない。天上から水が降らぬのは、天上に水がないからだ。橋がかからぬのは橋が必要ないからだ。
そう思うと途端にこの暑さも嫌ではないような気がしてきた。
夢物語だ、あり得ないという人だっているだろう。でもそんなの誰がわかるというのだろう。冬には暗かった夕方の空は未だ照りつける太陽で眩しく、陽が落ちても人工的な光がそこかしこに光るこのコンクリートジャングルからは星の一つも見えそうもない。天上で起きていることなどここにいる誰もわからないのである。
暑さにたまらずコンビニに駆け込んで、水を一つと塩分タブレットを一袋、気分が良くってビールとおつまみも買って、でも三円のレジ袋はケチりたかったからカバンにぎゅうと押し込んだ。
モンモンとした暑さのなか、タブレットを一つ口に放り込んで水をグイグイ呷る。ペットボトル一本だって小さなカバンには入りそうもないからコンビニのゴミ袋に捨てて帰ろう。飲みきれなくて中途半端に残った水はピシャッと人目を忍んで駐車場に撒いてしまった。
水を飲んで冷気を浴びて、ちょっと回復した体で家路を辿る。まだまだ日傘は閉じれそうにない。
撒かれた水に雀が止まってコツコツと地面を叩いていた。水が飲めないとわかるとパッと羽ばたいて木陰に戻っていく。地面の色はもう元通りだ。
『七夕』
7/7/2024, 3:43:48 PM